#20 〇行為を見せてくれ

「キミたちの性行為を見せてくれ」

「「えっ?」」


 リブラ先輩のとんでもないお願いに、マリアとサニーは揃って驚愕の声を零した。当たり前だ。『目の前でセックスしろ』と言われてすぐに受け入れられる奴のほうがおかしい。その常識は抜きゲー『ハセアカ』にも適応される。

 ……まぁ、そうじゃないと青姦とかの羞恥プレイが成り立たないしな。


 俺はと言えば、二人よりはまだ冷静だ。

 『ハセアカ』のリブラ・アインシュタインは主人公フリードに契約者との性行為の内容を報告させ、その報酬として様々なグッズを渡してくれるキャラだった。

 だからリブラ先輩の興味が性行為の内容にあることは何となく分かっていたのだ。


「せ、性行為って……そんなのできるわけないじゃない!」

「どうしてだい? 殿下も初めてというわけじゃないだろう? もう二晩連続でシて、性行為に馴染んできたはずだ」

「なっ、どうしてそのことを――」


 サニーが顔を真っ赤にしながら訪ねると、リブラ先輩は自分の目元に触れながら答えた。


「ボクのスキルだよ。【分析】――このスキルがあれば、契約者以外のステータスも概ね視ることができる。ボクの眼によると、殿下は随分とマゾっ気が――」

「あーあー! もういいわ、分かったから! それ以上言ったら不敬よ!」

「ぐふふ、失敬失敬。つい楽しくて口が滑ったよ」


 サニーはもう泣きそうだった。潤んだ上目遣いでこちらを見てくる。あんまり可愛らしいのでぽんぽんと頭を撫でて慰めてやると、サニーはくすぐったろうに身じろいだ。


「べ、別にMじゃないんだからっ! フリードにされるのが気持ちいいだけなんだからねっ!」

「分かってるから自分で傷を抉るのはやめような!」


 最初にシたときはともかく、昨日のアレはMじゃなかったらなんなんだよって感じだった気がするが……まぁ、何も言うまい。

 同じく恥ずかしそうに赤面しながらも、マリアは覚悟を決めた表情で言った。


「あ、あの。それって……私たち三人でなくてもいいですか?」

「ふむ? どういうことかな?」

「……迷惑をおかけしたのは私です。サニーは関係ありません。フリードくんには力を借りないといけないですけど、サニーのことは巻き込みたくないんです」

「なるほど」


 これはボランティアではなく、ある意味の贖罪だ。

 そういう意味では『巻き込みたくない』って気持ちは正しいのかもしれない。

 だが――


「待ちなさい、マリア! そんなこと姫が許さないわ! 


 ――とサニーがすかさず異を唱えた。


「で、でも……恥ずかしい、ですよね?」

「当たり前よ! だけど、マリアとフリードに任せて姫は見ているだけなんて許さないわ。姫たちは三人一緒だもの。二人がえっちなことをするなら……ひ、姫もするわ!」


 サニーとマリアが見つめ合い、手を繋ぐ。

 まさに美しき友情。二人が仲良くなってくれたこと、本当に嬉しく思う。本来なら俺が二股をかけている状態なわけだし、険悪な関係になってもおかしくないはずなのにな。


「話はまとまったようだね。じゃあ、三人で性行為をしてもらっていいかな? ボクはその様子を観察させてもら――」

「いや、普通に断りますけど」

「――え?」


 話がまとまりかけていたところで、俺がはっきりと口を挟んだ。

 リブラ先輩が驚いた風にこちらを見る。いや、当たり前だろ……と心の中で思いつつ、俺は今しがた口にした言葉を反芻した。


「普通に断ります。協力するとは言いましたけど、いくら何でも限度があるでしょう」

「でも、フリードくん。私が迷惑をかけてしまったのは事実ですし……」

「だったら他のことで手を貸せばいい。そもそも魔法訓練場での事故なんて珍しくないんだし、ある程度は自己責任だろ」

「ど、どうしたんだい……? 二人はやるって言ってるんだろう? だったら――」

「――二人がよくても、俺が嫌なんですよ。そういう行為をする時間は、第三者と共有するものじゃないって思ってるので」


 確かに、リブラ先輩に協力するとは言った。だけど、何でもするとは言っていない。


「つーか、最初からリブラ先輩は俺を狙ってたんですよね?」

「……なんのことかな? ボクにはよく分からないよ」

「とぼけないでくださいよ。隠すつもりもないくせに」

「フリード、いったい何のことを言ってるの?」

「フリードくん……?」


 サニーもマリアも、俺の言っている意味がピンときていないらしい。無理もない。俺も今のリブラ先輩の反応を見るまで、確信できていなかった。


「未契験者で、なおかつ研究者気質のリブラ先輩が魔法訓練場にいるなんておかしくありませんか?」

「…………新入生の勧誘だよ。ボクの〈【淫紋契約】研究会〉は会員が少なくて、解体の危機なんだ。研究室を手放すのは忍びなくてね」

「その言い訳カードを切ったらリブラ先輩の負けですよ。魔法訓練場での研究会への勧誘は禁止されてます。危険行為をしていたと認めれば、リブラ先輩は今回の件を引き合いに出せなくなっちゃいますよ」

「うぐ……」


 この反応が答えみたいなものだ。

 二人にも、そして一応リリスにも分かってもらえるよう、俺は最初から整理して説明する。


「【勇者の卵】の俺に興味を持ったリブラ先輩は、俺たちに協力させるために魔法訓練場にいたんですよね? 事故に巻き込まれて負い目を感じさせられればよし、そうでなくとも何かしらの方法で接点を持とうとした。――違いますか?」

「……そうだとも。ボクは“執拗”だ。探求心のためなら何でもする。悪いかい?」


 リブラ先輩は開き直って言った。

 その言葉は正しい。“執拗”という二つ名は、観察への病的な執着からつけられたものだ。【淫紋契約】を結んだ男女のセックスを徹底的に観察しようとし、様々な手段を講じて相手に協力を強いる。『ハセアカ』の主人公フリードはそんな様子を見ていられず、自分の経験を語ることにした……はずだ。


「別に悪いとは言いませんよ。でも、マリアやサニーを巻き込むのは認められません。つーか、二人のえっちなところを見せたくないですし」

「見せたくない? 愚かな考えだ。ボクの話を聞いていたかい? 誰もが漠然と【淫紋契約】をして、強くなる機会をふいにしているんだ。ボクはその不幸な流れを止めたい! より効果的な【淫紋契約】の方法を見つけるために、【勇者の卵】であるキミの協力が必要不可欠なんだよ」

「そもそも、その考え自体が間違ってるんですよ。【淫紋契約】は強くなるためにするべきものじゃない。効率とかじゃなくて、好きな相手と好きなようにするべきなんです」

「好きな相手と好きなように? 【淫紋契約】の第一人者であるボクの前で、愛などという眉唾なものを口にするのかい?」

「ああ、俄然言ってやりますよ。愛なき【淫紋契約】なんて間違ってる!」


 いつの間にか、俺はリブラ先輩と言い合いをしていた。

 それも当たり前だ。

 リブラ先輩は俺と相容れない存在であり――この世界をひっくり返すために、倒さなければならない人なのだから。


 そこまで考えて、ああそうか、と今更ながらに気が付く。

 現状を打破するためのキーパーソンこそ、リブラ先輩だ。


 どうして今まで考えが及ばなかったんだろう?

 根底が違う相手を変えるのは傲慢? 異星人みたいなもの? ――違う。

 もちろん、リブラ先輩の根底には、変えられない【淫紋契約】への探求心があると言えるだろう。だが、その探求心を契約の効率化へ方向づけているのは、既存の価値観だと思う。


「――分かった。じゃあ、見せてあげますよ。愛ある【淫紋契約】の力ってやつを」

「そこまで言うなら見せてほしいものだね。だけど、どうするつもりだい? 確固たる結果を出してもらわなければ、ボクは納得できないよ」

「でしょうね。だから――俺たちをこの研究会に入れてください」

「……は?」

「えっ?」「フリード!?」


 昨日二人と話して、俺一人では届かないものがあると思った。それは戦いの場に限った話ではない。

 この世界の空気ルールを変えるためには仲間が必要だ。


「俺たちがこの研究会に入って、新人大会で優勝します。それができたら愛ある【淫紋契約】こそ意味があると認めてください」

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抜きゲーの主人公に転生したけどヒロインが可哀想なのでエロ展開にグーパンしたら、なぜかエッチに迫られまくる生活が始まった 兎夢 @tomu_USA

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