明日。

燈幻桜

明日。

「 また明日 」

手を振りそう言う君の瞳には、

僕はどんなふうに映るんだい?

振った右手と、創った笑顔。

一粒の雨は、君に届いたのかな。



「 じゃあね 」

貴方の瞳に、水溜まりが見えた 。

知らないふりをして、背を向けて "明日行き" の電車に乗る 。

貴方は乗らないのかな、ずっとそこに立っているじゃない 。



ミライ色の電車は、まだ僕には少し眩しくて。

ベルが鳴る。もう時間だ。

鴉が鳴く。ドアが閉まる。

僕を見た、君の頬に、

そっと夕日が口付けする。


『また明日』が来ないことくらい、

僕が一番知ってるくせに。



ドアのガラス越しに見える貴方は、目眩がするほどに綺麗で、

つい見惚れてしまいそうになる 。

貴方が私に生きることを教えてくれたのに、

貴方に明日は無いのね 。

鴉達には夜の鼓動が聞こえているの。



『 諦めろ 』

と、俺が囁く。

もう何回も、繰り返した。

どうせわかっていたでしょう?

きっと今度も、また同じ。

「 愛してるよ 」

と、小さく呟く。

黒い鴉も白い鶴も、

誰も僕を見やしない。

当たり前でしょ、


僕は醜い灰色の鵞鳥ガチョウ

僕はいつでも、時間の鳥。



「 いやだ 」 って、

強く、思った 。

でも、魔法はいつか絶対に溶けてしまうことくらい、

二人とも知っているんだよ 。


これは、心臓のない君を愛してしまった私の罪 。

まだ貴方に名前を呼ばれたいの、

まだ貴方に愛して欲しいの 。


信じたくなくて、空いた心に嘘を詰め込む 。

来世では、貴方の心臓を射る花になれるかな 。


あなたに、触れたくて 。

触れて欲しくて、最後に手を伸ばす 。



「 ごめんね、 」

そう言って背を背ける。

もう君には会えないのかな、

もう君の頬に触れることはできないのかな。

僕の心にぽっかり空いた穴は、

君の涙で埋まりそうだったけど。


もう、遅いから。



「 行かないで 、」そう、零した。

言っちゃだめだって、わかってるのに。

貴方に貰った私の舌で転がる飴は、

いつまでも苦いままで、いつまでも暖かい 。

君の「おはよう」が、聞きたかったのにな 。



「大好きだよ、」

そう、答えた。

ずっと、初めから、わかってた。

大丈夫。またすぐ、会える。

そう自分に言い聞かせて、僕は乗り込む。

何度も、僕が通った道。

何度も、僕が通るだろう道。


目を背け、歩き出す。

昔、自分に誓ったから。

さっき、あなたに誓ったから。

『やり直し』のバスに、乗り込む。



かたん、かたん、と音を立てる電車 。

貴方との思い出が窓の外に流れる 。

電車は私の涙で溢れて、いつか見た水族館になったよ。

初めてのデート、楽しかったな、なんて思いながら 。


貴方が、あの時。

伝えてくれた “好き”。

私にはとても特別で

泣きそうな時、

崩れそうな時、

貴方の言葉を

思い出すの 。


私も、大好き 。


夜の心音を聞きながら 深いふかい、眠りにつく。



もう二度と、明けない夜の。


すぐそこにいる、明るい夜明けまで。

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明日。 燈幻桜 @cereso

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