誇り
俺の名前はピット、モトナリというご主人のドラゴンで、レッドドラゴンの
ご主人はいつも俺を放し飼いにしている。
家の中でも外でも俺は自由だ。
犬や猫のように首輪をされることもない。
ご主人にはイチキシマ姫という霊が憑いているけれど、この人は基本的に俺には優しく接してくれる。
よく頭を撫でられることが多い。
あと、部屋にネズミやゴキブリが出ると俺に退治の依頼が来る。
俺は基本的に与えられた食事はとらない。
何故なら俺はドラゴンであり貴族だからだ。
狩猟は貴族のたしなみである。
俺は毎朝、家を出ると近くの森に飛んで行って昆虫や木の実を取って食う。
たまに俺の食事をイノシシが邪魔をしてくるが、その時は尻尾に装備した槍で追い払う。
そして町に戻ると日が登ったばかりの市場を散策する。
すると人間の子供に絡まれる時がある。
子供たちは俺の頭をなでたり、背中に乗ってきたり、親に連れ去られたりする。
心配しなくても俺は手綱が無い状態で飛び上がったりはしないのだが…
「よぉピット、今日は仕事ないのか?」
今俺に声をかけて来たのは同じレッドドラゴンの分け御霊であるジョルジュだ。
ジョルジュのご主人様は龍人族でランクBの冒険者である。
「今日のモトナリは休みだよ」
「そっかぁ、休みかぁ、いいなぁ…」
「ジョルジュは仕事?」
「そうなんだよ、1週間は帰ってこれねぇ」
「頑張ってね」
「ご主人様は龍使いが荒いんだよなぁ、俺に重たい荷物めっちゃ載せてくるし、囮として突撃させられるし」
「大変なんだね、俺も戦う事があるけど囮にさせられたことはないよ」
「なぁんで龍人族ってドラゴン使いが荒いんだろうな、レッドドラゴン様に怒られればいいのに」
「それは龍人族が強さを求める種族だからじゃないかな」
「そりゃまぁ、強さこそが本質だ、的なところはあるからな」
「それはそうと、俺だって大変だよ、負傷した冒険者や神を運んだりさせられるからね。まぁお陰様で現地までは基本的に手ぶらなんだけど」
「なんか運用方法が全然違うな」
「まぁ、モトナリは攻略よりも生存戦略を優先する冒険者だからね、基本的に準備が整ってから突撃するタイプだし」
「弱い人間なりに色々考えてるんだな」
「まぁね」
弱い人間と言われて少し嫌な感じがしたが、そんな事で事を荒立てたらモトナリが悲しむのでスルーしておいた。
「なぁ、ピットぉ、手伝ってくれねぇか、半分荷物持ってくれよ」
「残念だけど休むのも仕事だってモトナリは言ってたからね、頑張ってね」
俺がそう言った後、ジョルジュのご主人様が近づいてきてジョルジュは背中に大量の荷物が括り付けられ、彼は町を去って行った。
さて、俺は街の散策の続きをしよう。
と思って観てもいつも通りの見慣れた町だ。
龍人族もいるし、狼族もいるし、ナイトメアもいる。
通りすがりの子供たちに体を触らせてやったり、どのかの店の店主にお使いを頼まれることもある。
それもこれも貴族の務めだ。
さて、今日はそろそろ家に戻ろう。
そうして家に帰ってみるとリビングのソファーでモトナリが武具のカタログとにらめっこをしていた。
休みの日はいつもこんな感じだ。
残念ながらモトナリは貧乏性である。
もう装備を新調できるだけの資産があるのに、彼は未だに初期装備でいる理由は、資金が減るのが嫌なことと、今着ている装備への愛着からである。
姫様は「装備新調したら?」と言っているが、モトナリは「SDGsです!」と言って姫様に呆れられていた。
エスディージーズというのはよくわからないがモトナリはなにやら拘りの強い人間らしい。
あとモトナリはカタログを見るのが大好きな変人だ。いつもニヤニヤしながらカタログを見ている。
レッドドラゴンの分け御霊である俺たちドラゴンの知性は刺青を掘られた主によって決まってくるというが、それは本当なのだろうか?
モトナリは貴族ではない、ただの冒険者だ。
だとするなら俺の貴族意識はどこからやってきたのだろうか?
ただ、モトナリはよく人助けをする。
そして、他人の失敗を決して笑ったりしないし、失敗を怒鳴ったりもしない。
人助けをした後の彼の顔は、いつもどこか誇らしげだ。
その顔をいつも誰もいないところでする。
知っているのは俺と姫様だけだ。
それだけで、俺はこの人についていくに値する。
何故なら俺のご主人様は、最初から強い人間なのだから。
現代社会で信仰心MAXの俺が異世界で無双してきた。 芸州天邪鬼久時 @motoharu2024
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