参(2)
あっという間に蘇芳は森を抜け、少し開けたところへと出た。鬱蒼とした木々が減り、月明かりが煌々と空から降り注いでいる。しかし完全に森が途切れたわけではなく、東の方向には、これまた鬱蒼とした標高の低い山々が連なっていた。
「あの手前の山が、禍羅組とやらがいる椿峰山ですか……」
蘇芳はあの絵図を思い浮かべながら、山々を見る。しんと静まり返った空気が流れているが、あの
(油断なりませんね……慎重にいかねば)
蘇芳はまた小走りで、椿峰山に向かう。
――長い一日だった。
蘇芳は深く息を吸って、吐き出す。
今までの
諸国の
そんなある日、東海地方に滞在していた蘇芳に届いた書状。それは、色沢国で行われる連歌会への招待状だった。どこかで
断る理由も特に無かったため、承諾の返事を出した。そして蘇芳は暫く滞在した東海を発ち、関東を目指すことにしたのだった。
そして無事にたどり着いた色沢国では――最初から奇妙な視線を感じ、その後に出会ったのは琥珀の瞳を持つ謎の
彼らは何故か琥珀のことを狙っており、佐紺によると色沢国の人々も手を焼いているらしい。……というより、手出しできない、支配が及ばないといったほうが正しいのだろうか。
(話によると物盗りだけでなく、殺人や誘拐も行うそうですね……。たかが山賊なのに、何故こんなにも大きな組織に成長したのですかね)
蘇芳は首を傾げる。しかも、禍羅組とやらは、山に隠れてコソコソと活動をする山賊ではなく、むしろ自分たちから市に出て行ったり、人目の多いところで暴力沙汰を起こしたりするというのだ。
(近隣の平和のためにも、そして琥珀殿のためにも……禍羅組には一度
蘇芳の目が鋭くなった。切れ長の涼やかな目に、冷酷な光が宿る。その紅い眼光は仄かな闘志を秘めていた。
(全ては世の平穏のため――)
蘇芳は、そう自分に言い聞かせる。
***
椿峰山の真下までやってきた。黒い山影が迫る。岩の剥き出しになった部分が、月明かりを受けて輝く。
蘇芳は編笠を深くかぶり、足音を殺して山の中へと分け入っていく。――と、そのとき。
(ん……?)
蘇芳がなにかに気づく。まだ上り始めてすぐだが、何やら動くものの気配がした。
(獣……ではありませんね)
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