弐(5)
旅人と侍の目が合う――――。
「あれ、
蘇芳は、侍の瞳を見て何か気づいたようだった。この視線の感触、蘇芳が色沢国に入ってからずっと感じてきたものである。
「もしかして私がこの国に足を踏み入れたときから、ずっと後をつけていませんでしたか?」
首を傾げた蘇芳に、侍は少し目を見開いたあと、ふっと視線をそらしてつぶやいた。
「まじかよ……バレてたのかよ。ほんとにお前は何者なんだよ……」
袴についた土埃を払いながら、ゆっくりと立ち上がる侍。彼はその青い髪を揺らして、蘇芳と琥珀に目を向けた。
「俺は、
青い髪に紺色の袴、黒光りする鞘の刀を提げている若侍――真田佐紺が、再度口を開いて続ける。
「鴇羽蘇芳と、琥珀といったな。話は聞かせてもらった……が、禍羅組に関わるのは本当にやめたほうがいいぜ。命がいくつあっても足りん」
そう言った佐紺に、琥珀がジトッとした目を向ける。
「はぁ!? なんでわっちらの名前覚えとんのや、キショい」
すると佐紺は先程までの真剣な声音をやめて、少女に向かって言い返した。
「キショいとはなんだ、キショいとは!」
「そのまんまやん、蘇芳のことずっとつけてきよって。
「ストーカー? そんなこと言ったら、お前みたいなガキの頭をナデナデとかしてる鴇羽蘇芳とやらのほうが
そう叫んだ佐紺と琥珀の間に割り込んできたのは、赤髪の旅人。
「さ・な・だ・ど・の……?
誰が幼女趣味、ですって?」
ニコニコとしながら尋ねる蘇芳と、それに乗じて佐紺を責める、気の強い少女。
「なんやこのバカ侍! だーれが幼女や、もういっぺん言うてみ!?」
侍も負けていない。
「幼女はお前だ! この石投げワルガキめ!」
「はぁ!? あんたなぁ、そういやさっきわっちに『尖った石投げやがって』とか言ってきたけど、わっちが選んだんは丸っこい小石やからな!」
「嘘言え! 痛かったんだぞ?」
「それはあんたの足首がひ弱やっただけや」
「うぐっ、言わせておけばこのやろぉ……」
佐紺が琥珀に近づき、拳を振り上げるフリをする。すると琥珀は途端に可愛らしい声を出し、蘇芳に泣きついた。
「わぁぁ、蘇芳ぅぅ! バカ佐紺がわっちのこと殴ろうとしてくるぅ!」
すると蘇芳は、まだ幼女趣味と言われた時の笑みを崩さぬまま、佐紺に顔を向ける。
「ダメですよ? 真田殿」
「あぁ? お前は引っ込んでろ、俺はその琥珀というガキに一発入れなきゃ気が済まねぇんだよ」
「暴力は、いけませんよ?」
仏のごとき笑みで諭す蘇芳。佐紺は「あのなぁ」とため息をついた。
「暴力はダメって……それをお前がいうか? 誰だよ、さっき禍羅組のおっさんたちを瞬殺してたのは」
「え? 瞬殺はしてませんよ? 殺してはいませんから」
「いやいや」
佐紺が微妙な表情を浮かべる。
「あの蹴りはほぼ半殺しみたいなもんだっただろーがよ……」
佐紺がそこまで言ったところで、彼はようやく、もともとの目的を思い出したらしい。
「あ、そもそもといえば、俺はお前……鴇羽蘇芳という旅人の正体を確かめに来たんだよ。ちくしょう、琥珀のせいで忘れてたじゃんか」
佐紺は拳をおさめ、同時にその青く鋭い眼を蘇芳に向けた。
「……つい馴れ合っちまったが、こっからは真面目な話だ」
若侍の低い声に、空気が張り詰める。
「隠れていた筈の俺に視線だけで気づいたところといい、禍羅組のゴロツキを瞬殺してしまったところといい……お前、ただ者じゃねぇだろ」
蘇芳の目が細められる。
佐紺の眼光が、旅人を貫いた。
「お前は、なんなんだ? 鴇羽蘇芳よ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます