第41話
放課後になりスマホのメッセージをチェックしていると、深瀬先輩から連絡が来ていた。あわててトークルームを開くと、今日は友達と帰るから一緒に帰れないという内容だった。了解ですというスタンプを送ってから、ザワザワしている教室を後にする。今日は小春が家の用事で先に帰ってしまったから、1人で帰るしかなさそうだ。
昇降口で上靴からローファーに履き替えて一歩踏み出すと、長身の男子生徒にぶつかってしまった。あわてて謝ろうと顔をあげると、先に頭を下げられた。
「悪い!友達と話してて周り見てなかった!」
「こちらこそごめんなさい!あれ、矢島先輩?」
顔をあげた相手は矢島先輩だった。矢島先輩も私の存在を思い出したようで、口角をあげて話しかけてきた。
「おお、美恋じゃん。偶然だな!今力待ってて…」
「美恋ちゃん!」
矢島先輩が話している途中でどこからともなく現れた深瀬先輩があわてたような顔で私の名前を呼び、私と矢島先輩の間に入った。
「大丈夫?何もされてない?」
矢島先輩に背を向けて私の目を見つめる。ドキッとした心音をごまかすように状況説明をしようと口を開くと、深瀬先輩の向こう側から抗議の声が聞こえてきた。
「何もしてねえよ!ぶつかっちゃって、謝ってただけ。力は心配性だな。」
「そ、そうです。」
「そっか、よかった。累が何かしてたらどうしようかと思ったよ。」
「失礼な奴だな!」
けんかしているようで2人とも笑いあっているから仲が良いんだろう。深瀬先輩が来たことに気づいたのか、矢島先輩の近くにいた別の先輩も近寄ってきた。
「累、力、何してんの。早く帰ろうぜ。」
「ああ、ごめんごめん。じゃあ美恋ちゃん、また明日の部活で…」
「何言ってんだよ、美恋も一緒に帰ろうぜ!せっかくまた会えたんだし。」
「えっと…」
断る理由も思いつかず口ごもっていると、深瀬先輩が助け舟を出してくれた。
「3年男子の中にいきなり1年生の女の子が入っても美恋ちゃんが困るだろ。ほら、帰るぞ累。」
そう言ってもう1人の先輩と矢島先輩のカバンを持って引きずっていってしまった。去り際に手を軽く振ってくれたので、あわてて振り返す。
矢島先輩は、にぎやかな人だ。声も大きくて目立つ。知り合ってから何かと目に付くようになった。それは私が深瀬先輩を意識していて、矢島先輩がいつも深瀬先輩の近くにいるからだろうけど。
授業中で教室にいる今だって、体育の授業で校庭にいる3年男子の中から一際目立つ声が窓際に座る私には届く。窓越しに校庭を見下ろすと、深瀬先輩と肩を組んでいる矢島先輩の姿が見えた。
(こっち見たりしないかな?)
先輩、キャンディをどうぞ。 すあま @suama0141
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