第92話 どちらかを選べって言ったってさ

「結婚おめでとう!!」


 あれから色々なことがあって、俺はここにいる。もちろん彩芽、美由と小さな喧嘩もしたが、すぐにお互い謝ったので、そんなに揉めることもなかった。そしてそれ以上にふたりを愛してきた。今更、彩芽と美由どちらかを選べと言われてもどうしても選べない。他の誰にもやりたくなかった。だから俺は一心不乱に勉強してドバイの石油王の通訳となり、ドバイ国籍を取得した。


 ムハンマドとは、東京大学在学中に友人になり、彼の人柄に惚れ親友になった。ムハンマドに俺の実情を言うと彼はドバイに来ればいいよ。俺の通訳になればいいと和かに答えた。


 形としては、ムハンマドの通訳だが、実際彼の経営の大部分も任せてもらっており、将来は独立したらいい、と言われてるくらいだ。ムハンマドはアメリカ、ヨーロッパ、日本と交渉先が多く、俺は四カ国語を操る毎日だ。


 でも、ドバイではムハンマドのような現地人と俺のような外国人とでは、扱いが異なる。だから、俺はこれからも彼と一緒にやっていけばいいと思ってる。


 結婚式は、ふたりのたっての願いとして、披露宴だけは日本であげることにした。高校時代は友達が少なかった俺だが、大学に入り将来の結婚を見据えたため、友人が一気に増えた。


 流石に日本の最高学府だけあって、医者、科学者、弁護士、会計士など友人にも人材が豊富だ。在学中もふたりとずっと一緒にいたため、学内でも有名なハーレムカップルと言われた。


 美由は俺より頭が良かったため、現役で東大に合格した。俺と彩芽は一浪組だ。俺たちが合格できたのは、美由の指導のおかげだ。


 美由の父親からは、結城家を継いで欲しいと懇願されたが、俺は海外の国籍を取らないとふたりと結婚できないため、断り続けた。


 最終的には理解してくれて、結城家には養女として、うちの姉さんが入ることになった。これは美由のたっての願いだったからだが……。


「幸人、美由ちゃん、そして彩芽ちゃん、おめでとう。まさか、幸人の後ろの席だった僕がこうしてふたりの仲人に選ばれるなんて思っても見なかったよ」


「幸人は友達いなかったからね」


 美由はニッコリと笑った。


「本当にそう。僕だけだったね。あの時は、ボッチが好きな幸人が、こんな大物になるなんて思わなかった。それもこれも、美由ちゃんと彩芽ちゃんのおかげだね。今後もドバイが仕事のメインになると思うけど、日本に来た時はよろしくね」


「ああ、ありがとうな」


 そして、ふたりの花嫁が父親に宛てた手紙だ。


 なんか、こう言うの泣けるな。美由は長い手紙を父親と母親に向けて読んだ。一人っ子の娘がいなくなる気持ちは痛いほどわかる。俺ももらい泣きしてしまった。


「パパ、ママ、本当に無茶苦茶なお願い聞いてもらって、ごめんなさい」


 これは俺に責任がある。どちらかを選んでいたら、こうはならなかった。


「お父さん、俺からもすみませんでした」


「あー、初めて聞いた時には、本当に腹が立ったよ。ふざけるな、とも思った。でも、君の姉さんから説明を受けていくうちに、仕方がないと思うようになったよ」


「本当にすみません!」


「わたしが言ったように毎年顔を出すこと。これは約束だからな!!」


「はい!!」


 今度は彩芽がお父さんに宛てた手紙だ。


「本当にわたしひとりが勝手に考えてしまった。幸人にも、お父さんにも相談しなかったことが、全ての始まりだったと思います。でも、そのおかげで美由ちゃんとも出会えた。そこは感謝です。お父さん、本当に今まで育てていただきありがとうございました」


「おいおい、もう帰ってこないような言い草じゃねえか!」


「わたしには幸人がいれば充分だもの」


「おい、幸人ふざけるなよ! て言うのは冗談だ。寂しくなったらいつでも帰ってこいよ。後、美由ちゃんのお父さんの言葉じゃねえが、一年に一度は顔を出せ。俺のことで彩芽、お前は苦しい思いをさせてしまった。そこは今でもすまないと思ってる。だが、こうして幸せになってくれて、本当に良かったと思ってる。俺は美由さんのお父さんのように立派じゃないが、娘を想う気持ちは一緒だからな! 幸人、悲しませることがあったら許さないからな!!」


「はい、本当にこれまでありがとうございました。俺は彩芽に寂しい思いは絶対させませんから!!」


「おう、その粋だよ!!」


 こうして披露宴は盛り上がり、美由と彩芽が協力したブーケトスは、姉さんがダッシュで受け取った。


「ほーら、とったぞ!!」


 いつも思うがこの人は本当に人間か。姉さんには渡さないように投げてもらったつもりだったが、すごい跳躍でとったよ、この人。それにしても本当、いつ相手が出来るんだよ。まあ、結城家の養女になってからは、金目当ての男に付きまとわれる毎日で人を見る目ないんだから、正直、相手には気をつけろよ、と言いたいがな。


 まあ、相手ができたら相談するようには言ってある。できたら、俺が相手を見つけるのがいいのだが、過去、何回か俺が友人を何人か紹介したが何度かやらかしてるので、男の方が引き気味だ。


 その流れのまま二次会もほぼメンバーが変わらずに盛り上がり、ホテルに着いたのは、深夜を少し回ったくらいだった。




――――――




「疲れたよーっ」


「わたしも、疲れたー」


 美由と彩芽は足を伸ばして、ベッドでくつろいでいる。正式な籍はドバイにいた時に入れているから、披露宴自体はお披露目会みたいなものだったが、実感としてふたりと結婚したんだ、と言う実感が湧いてくる。


「これからは、つけなくても大丈夫だよね」


「本当だよ。幸人、で子供は何人欲しい?」


「気が早いよ。俺はもう少しゆっくりと2人といたいんだよ」


「確かにゆっくりとしていけばいいかもね」


「だろ!!」


 正式に付き合って、まだ十年だ。俺にはまだまだ、やりたいことがあるよ。


「美由、彩芽、これまでありがとうな」


「なんか、その言葉、これから死んでいくみたいで嫌だよ」


「いや、その後にこれからもよろしくな、と言おうとしてたんだよ!!」


「もちろんだよ。これからも、幸人よろしくね」


 こうして俺はふたりと生きていく。ふたりがいたから、ここまで来れた。そう言う意味でのよろしくだったんだけどな。


「ほーら、幸人、私たちと一緒に楽しもうよね!!! 新婚初夜だよ!! 初夜」


「お前ら、恥じらいとかないのかよ!!!」


「今更だよねえ」


「ねえ……」


 性欲は年月を重ねていくうちに女性の方が高まってくると言われる。俺はこの先大丈夫だろうか?


 少し心配ではあるが、可愛い妻たちのために、頑張ろうと思った。


おわり




――――




長い間お付き合いありがとうございました。

また次回作でよろしくお願いしますね。


ではでは


 

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人を信じられなくなったボッチの住むマンションには救いの手を差し伸べる天使がいた。でも、彼女との偶然の出会いは、姉により計画されたものだとは思わなかった 楽園 @rakuen3

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