第91話 うん? 話違うくない?

「でさ、もう付き纏わないでくれる?」


 俺達は姉さんが彩芽と公園で会うと言うので、一緒について行った。殆ど役に立たないとは思うけど、真実くらいは伝えたい。


「ごめんなさい。わたし、幸人くんと美由ちゃんの優しさに甘えてしまってました」


 彩芽は覚悟していたのか、ぺこりと頭を下げた。その瞬間、一筋の涙が流れる。


「あれ、おかしいな。ほんとに、ごめんなさい」


 もっと反発してくると思ってた姉さんは、驚いた表情をしていた。


「あのさ、最後かもしれないからさ。幸人に言いたいこととかあるだろし、伝えておいたら、どう?」


 結果的に自分が別れさせることになってたからか、姉さんはバツが悪そうだ。


「そうだね。こんなこと最後に言うことじゃないかもしれないけども、ずっと幸人くんが好きだったよ。一度も、ブレたことはない。川口に脅された時も、心は幸人くんのことだけ考えてたんだ。だから、幸人に酷いこと言うの本当に辛かった……です!」


 ごめんなさい、とそのまま泣き崩れる。姉さんは何が起こったのか分からなかった。


「えとさ、結果的には川口は、酷い奴だったみたいだけど、一度は彼のことが好きになったわけだよね」


「えっ!?」


 俺と美由は顔を見合わせた。あれ、もしかして、姉さん、川口と付き合った理由を知らない?


 そう言えば、美由の父親には、美由が全て説明していたが、姉さんには何も言ってなかった。まあ、言う暇さえもなかったんだけどね。


「わたし、川口のこと、一度も好きになったことなんて、ないです!!」


 そりゃそうだろう。俺は腕を組み、うんうんと頷いた。


「幸人? どう言うこと?」


「今、彩芽が話した通りだよ」


「ちょっと意味が分からない。川口に脅されて付き合っていたってこと? 幸人、説明しなさい!」


 俺は漁業組合のことなど、今までのことを全て説明した。


「はあっ!? 幸人!! あなた、なぜそんな重要なこと黙っていたの!!」


「いや、話す余裕さえ与えなかったのは、そっちじゃねえか?」


「あなたが言い訳じみた事を言ってきたからでしょ!!」


 凄い言い草だ。姉さんの言い方だと俺が完全に悪くなる。姉さんは彩芽の両肩に手を置いた。


「ちゃんと教えてちょうだい。わたし、凄い勘違いしてるかも」


「ごめんなさい。わたしは漁業組合のために、一度は幸人を諦めたんです! もし、あの瞬間、わたしにもっと勇気があれば、みんなに相談していれば……よか……」


 そのまま、姉さんは彩芽の身体を抱きしめた。


「ちょっと幸人!!」


「なっ、なんだよ」


「どうして、こんな可哀想なことになってるのに、放っておけるのよ!!」


「いや、ちょっと待ってくれよ!! 姉さんが……」


「幸人のせいだよね!!!」


「えっ、えええっ!!」


「結果オーライですよ。幸人さん、頷いておいてください」


 隣で手を握る美由が小さな声で俺に囁くように言う。


「あっ、ああ」


「これだから、男はさ。女心って言うのを全く分かってないんだよ!!」


 そう言って、姉さんは彩芽から離れて、俺の肩を強く叩いた。


「姉さんが許すから、とりあえず彩芽ちゃんと美由ちゃんと付き合いなさい!! どちらかが気にいるいい人をわたしが探してあげるからね!!」


「いや、余計なことはしない方が……」


「何か言った!!」


「いえ、なんでも……」


 姉さんが男を見る目がないことは、好きになった男全員浮気者だったと言うところからも、よく分かる。


 まあ、最後の彼は可哀想な事になったが……。自業自得だろう。まあ、尊い犠牲のもとに進歩はあるのだからな。


 ただ、俺はその実験道具になるつもりはない。


「じゃあ、ふたりと付き合っても……」


「どうしてこんな冴えない男がモテるのかねえ。よく分からないわ!!」


 そう言って姉さんは彩芽と美由の前に立った。


「ふたりとも幸人のことを好きになってくれてありがとうね。幸人がどう言おうとも、姉さんがふたりと付き合うことを許してあげるよ」


 いや、付き合うことに姉さんの同意が必要なわけないが……、ただ、確かに美由の言うとおり結果オーライだな。

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