第41話
完成した音源を三谷さん達のレーベルに送り、はや三ヶ月。
気が付けば季節は夏。
梅雨も明けて蒸し暑さから、単なる猛暑へと変貌を遂げていた。
ついこの間まで春休みだった筈なのに……もう夏休みが近い。
間に一度ライブを行ったが、僕の気持ちは完全にCDの方へ向いていた。
そして今日がCDの発売日。
僕等コムのメンバーは皆で発売されたCDを見に行く事にした。
現物は手元に届いているのだが、それとこれとは別の話で、販売されている様子を見てみたい。
僕等コムのメンバーは、学校が終わってからいつものファミレスに一度集まり、この辺りで一番大きいCDショップへ向かった。
◇ ◇ ◇
CDショップの中に入り新譜コーナーと、インディーズコーナーをくまなく探す。
「あれ?置いてない」
姉御は驚いていた。
確かに僕等のCDは店内の何処を探しても置いてはいなかった。
見つからないので、店員さんに尋ねてみたところインディーズのCDはあまり取り扱っていないのだと伝えられた。
肩透かしを喰らった僕等。
「やっぱり、インディーズの、しかもオムニバスなんてそんなに置いてないのかなぁ?」
僕が弱気な発言をすると、姉御は――
「とりあえず、探せる範囲で探してみよう。手分けしてさ」
その一言で、僕等は手分けして僕等のCDが置いてある店を探す事になった。
◇ ◇ ◇
僕は思いつく限りのCDショップを探したが見つからず、半ば諦めかけていた。
すると、宮田から「売っているお店、見つけたよ」と、メッセが入る。
僕はすぐに電話を掛けて場所を確認し、店に向かった。
◇ ◇ ◇
僕が店に着いた時には、既に他のメンバーは皆到着していた。
「保科、遅いよ!」
姉御が僕に気付く。
「ごめん、ちょっと遠くまで探しに行ってたから」
そう言った後に、皆が集まっている場所に近付き。
宮田が指差した場所を見る。
平積みとかではなく、インディーズコーナーにひっそりと一枚、背表紙が見えるような形で並べてあった。
だが、そのCDを見て、僕は嬉しくて涙が出そうになった。
当然、池上とか、もっと全然真剣に音楽をやっている人達に比べれば、僕なんてまだまだ努力や苦労をしているウチに入らないとは思う。
だが、それでも今は悦に浸りたかったのだ。
「でも、何でこのお店には置いてあったんだろ?そんなに大きいお店ってワケでもないのに……」
僕が店員さんに聞こえないように呟く様に言うと、宮田が答えた。
「ここの店長さんが、一緒に参加してるバンドの人と知り合いなんだって」
「そういうのもあるんだ」
僕は納得する。
「だから俺等も色んなお店に行って、並べて貰えるように頼もうかっていう話をしてたんだ」
木田がここまでの状況を説明してくれた。
「それ、僕も賛成」
「賛成っていうか、強制だから」
姉御は僕を見て、威圧感のある笑みを浮かべた。
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