第31話


 スタジオの休憩所。

 僕と姉御の二人だけで椅子に座っている。


 「ミヤも木田も休みじゃ何もやること無いよねぇ。個人練習に切り替えて貰えたから安く済んだけどさぁ。二人とも急用なんて……」


 姉御は不機嫌そうに言う。


 「そうだね……」


 僕は明後日の方向を見ながら、気の無い相槌を打つ。


 宮田と木田が急用で休むという事で、僕と姉御の二人でスタジオに入ることになった。

 この数日間、宮田とは話をすることも連絡を取る事も無かった。

 今日のスタジオを休むという事すら姉御に聞くまで知らなかった。

 グループの方にもメッセージは無かったし……。


 そこでふと、姉御の口振りに違和感を憶えた。

 姉御は二人の事情を知らないのではないか?と言う事だ。


 木田は別としても、宮田は姉御には相談していないのか?僕には相談したのに?

 他人のプライベートだし簡単に話して良い事か悩んだのだが、これはバンドの一大事。

 リーダーの姉御が知らないというのは問題だ。


 「姉御はさぁ……宮田と木田の事知らないの?」

 「はっ?何それ?」


 姉御は怪訝そうな表情で僕を見る。

 この表情を見て僕は確信した。

 姉御は何も知らない。



  ◇  ◇  ◇



 僕と姉御はスタジオを出て、いつものファミレスへ。


 僕は宮田と木田についての一連の流れを姉御に説明した。

 最初の方こそ驚いていた様子だったが、次第に真剣に、そして考え込むような表情で僕の話を聞いていた。


 「……というわけで、今日の二人の急用っていうのは、その話の関係で会い辛いっていう事で間違いないと思うよ」


 僕は説明を終えジュースを一口飲む。


 「まぁ、確かにそれっぽいよね……」


 姉御は言った後、溜め息をつく。

 暫く二人とも俯き無言。



 「何やってんだよ、今日は二人だけか?」


 いきなり話し掛けられ、僕と姉御は驚いて声の方を向く。

 そこには池上が立っていた。

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