第29話
夢のようなリフターでのライブが終わって数日が経った。
当然、池上にもライブの話をした。
出来る限りの語彙力を持って何度も伝えた。
考えてみればこの数日間、その話を僕が一方的にしていただけのような気もする……。
流石に池上もうんざりしているだろう。
対応も素っ気無いというか、むしろ邪険に扱われている気もする……。
そろそろ別の話をした方がいいか……。などと教室で半分寝た状態で考えていた。
◇ ◇ ◇
学校が終わった後、姉御に招集されて緊急のバンド会議が行われた。
場所はいつものファミレス。
「急に呼び出してゴメン」
姉御はテーブルに座ったままだが、頭を下げる。
真剣な表情の姉御を見て、僕は少し緊張する。
「いいよいいよ別に。で、どうしたの?」
宮田が姉御に尋ねる。
「それなんだけど、みんな驚かないで聞いてね」
サミットの前座の話の時ですら、こんな大袈裟な前フリは無かったので、僕等メンバーはそれ以上の事だと勘繰り息を呑んだ。
「サミットのマネージャーさんから電話があって、サミットも参加するコンピレーションアルバムに一曲参加しないかって」
「えっ!?それって僕等の曲がCDになるって事?」
僕は身を乗り出して聞き返した。
「そういう事だよね?」
姉御の返答に皆、驚き過ぎて言葉を失った――後に、声を上げて喜んだ。
話題を出した姉御でさえも珍しく大はしゃぎだった。
散々騒いだ後、僕等が大人しくなり始めると、姉御は一息ついて――
「ただ、音源は各自で用意するようにって言ってた。それ以外の費用は掛からないらしいけど……」
「音源を用意するって何すんの?」
木田は姉御に質問する。
「普通に考えれば制作……。CDにするんだったらレコーディングスタジオとかで録音するんじゃないの?」
「金は掛かりそうだなぁ」
木田はテーブルに突っ伏す。
「バイト頑張れば何とかなるだろ?」
僕は木田に向かって言う。
「もっとも、辞退する気はないけどな」
木田は起き上がる。
「じゃあみんなオッケーって事で」
「「「うん」」」
姉御の言葉に三人とも同意した。
◇ ◇ ◇
話が纏まり僕等はファミレスを出た。
姉御と木田はバイトがあるということで、二人とはそこで別れた。
僕と宮田は途中までの帰り道を一緒に帰る事になった。
「CDになるなんて凄い事だよね。まさかこんなことになるなんて想像もしてなかったよ」
「うん。ここのところ本当に夢でも見てる感じ。まだ信じられない」
「そうだよね、私達の曲が商品としてお店に並ぶなんて、何か芸能人になったみたい」
嬉しそうに話す宮田を見て僕は――
「ひょっとしたら僕等、このままプロになっちゃったりすることもあったりして……」
流石にそこまでは無いだろうとは思いながらも、願望を込めて言ってみた。
「そうだよね、このまま皆でプロになっちゃうかも」
「いやいや、流石に冗談だから」
「え~、実際あるかもしれないよ。そういう所まで来てる気もするし」
「そんなに甘くはないと思うけどなぁ」
「じゃぁさ保科はもしプロになる話が来たら、どうするの?」
僕はその質問に対して真剣に考える。
「ん~……。わかんない」
「何それ?」
「そんな簡単に決められないよ。宮田はどうなの?」
「私はずっとバンドやりたいな……。今のメンバーで……」
宮田は空を見上げて言った。
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