第27話


 僕はステージを降りて、控え室に荷物を置き、いつものように一人になれる場所を探しに外へ出た。

 何も分からない場所では、とりあえず外に出るのが一番だ。


 自意識過剰かもしれないが、なるべく人目に付かない機材搬入口から出て、階段になっている場所に座り込んだ。



 何を見るでもなく、空を見て大きく息を吸い、そして吐く。

 色々難しく考えていたことが、ステージ上では本当にどうでもいい事になっていた。

 今思えば、何をそんなに不安に思っていたのか、思い出すことすら難しい。


 とりあえず、今日は楽しかった……。


 こんな経験は一生の内に、あと何度出来るのだろう?

 二度と無い可能性が高い。

 そう考えると、凄く虚しくなる。



 「またこんなところで休んでる」


 背後から宮田が声を掛けて来た。僕は振り向く。


 「……絶対に後を付けて来たよね?」

 「……何で?」

 「そうじゃなきゃ、こんな所にいると思わないだろうし、早すぎる」

 「バレたか」

 「バレるよ。何か用?」

 「いや、保科って休める場所探すの得意でしょ?私もちょっと休みたいなと思って」

 「別にそんな特技はないよ。ていうか、人がいたら休めないだろ」

 「そんな事ないでしょ、人がいたって休めるよ。保科以外は」

 「そうですかぁ」


 僕は気の抜けた返事をする。

 宮田は壁面を背に体育座りをして、空を眺める。


 僕も同じ様に視線を空に戻した。


 「本当に楽しかった……」


 宮田は、僕に言ったのか独り言なのか、分からないような感じで言った。

 一応、僕に向けていったのだと解釈し、返答する。


 「うん。楽しかった。その言葉しか出てこない。もっと酷い思い出になるかと思ってたけど……」

 「保科は考えすぎだよ……。でも、今回みたいなのが、こんなに楽しいっていうのは知らなかった」

 「実際やってみて初めて分かったよ」

 「またやりたいなぁ。こういうの」

 「でも難しいよ。この規模は……」

 「保科はさぁ……。卒業した後どうするの?」

 「普通に大学行く気でいるよ。どっか受かるところに」

 「地元?」

 「全然決めてない。受かるところならどこでもいいや」

 「メンバー皆で場所揃えてバンド続けようよ」

 「う~ん。出来るならそうしたいけど……」

 「今終わっちゃったら勿体無くない?」

 「ここまで上手く来てると、そう思いもしなくは無いかなぁ?」

 「はっきりしないなぁ」

 「いや、バンドは続けたいけど、今までみたいにトントン拍子で話が進むとは限らないし、木田や姉御がどうするかも分からないし」

 「そうなんだけどね……」

 「宮田はプロとか考えてるの?」

 「さすがにそこまでは考えてないよ……ただ皆と一緒にバンドを続けていたいだけ」


 宮田は腿の部分に顔を埋める。


 「まぁ、考えとくよ。っと、もう、サミットのライブ始まっちゃってるかな?見に行こうよ。せっかくタダで観れるんだし」


 僕は立ち上がり宮田の手を取って引っ張り、会場へ戻ろうとする。

 宮田も立ち上がり……


 「そうだね、行こっか」



  ◇  ◇  ◇



 僕と宮田は会場に戻り、超満員の客席の隅の隅といえるような場所で、サミットのライブを観た。


 盛り上がる人々、客を湧かせるステージ上の演奏者達――。

 その全てが、やはり僕等とは段違いで、自分達の未熟さを痛感させられた。

 同時に、こういう風に演奏してみたいという憧れを抱いた。

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