第20話
姉御の話を聞いてから僕なりに宮田、池上とのこれからの接し方を考えてみたが『何も変えないのがベスト』というより、それ以外の方法が見つかる筈も無かった。
そう、現状は何も無いわけで、何かあったとしても僕には関係の無い話。
今までそうしてきたんだし、今更何かを変えるほうが不自然だ。
何処か気持ちが晴れない感じもあるが、それはそれだ……。
そうこうしている内に、次のバンド練習の日。
木田も復活して、今回はちゃんとバンド練習が出来そうだ。
「ごめん皆。前回は迷惑掛けた」
メンバーが全員揃ったところで木田は頭を下げる。
「別にいいよ。体調崩しちゃったんじゃ仕方ないし」
宮田は慰めるように言う。
「馬鹿も風邪ひくんだね」
相変わらず木田に冷たい姉御。
「じゃ、皆揃ったしスタジオ入ろうか」
僕が話を纏めた。
◇ ◇ ◇
スタジオ練習が終わり、今日はいつものファミレスへ。
どんなやり取りがあったのかは知らないが、姉御と宮田は仲直りしたようだ。
元々、喧嘩とも違った感じではあった訳だが……。
まぁ、なんにせよ揉め事が無いに越した事は無い。
席に着き注文を終えた僕等は話を始める。
先ずは姉御が話し始めた。
「えっと今、12月24日のクリスマスライブと大晦日の年越しライブの出演の誘いが来てるんだけどどうする?」
事実上、バンドのマネジメント?活動は姉御が行っている。
リーダーってヤツだ。適任だと思う。
「僕は両方とも出たいかな……やることないし」
僕がそう言うと、宮田は少し笑って――
「私も両方出れる。特に予定ないし」
「マジで?ミヤちゃん予定無いの?俺も無いから出られるけど」
「うん。残念ながらね」
木田も出られるようだ。
一瞬、地雷付近を通りかかった気がして”ヒヤリ”としたが無事スルーしたようだ。
いや、僕が過敏になっているだけかもしれない。
「でも、ミヤちゃんマジで彼氏とかいないの?」
木田は再び地雷を踏みに戻ってきたようだ。あぁ、面倒くさい。
「まぁ……ね」
宮田は苦笑いで答える。
そうなんだ――と、目を輝かせながら頷く木田。
このくらいでは宮田の地雷は爆発しないのか、という事を確認したと同時に姉御には確認しないのだろうか?という疑問も感じていた。
しかし、宮田はそれなりに告白されたりしてるのに、なんで断り続けているのだろう?
嘘をついているようにも見えないし、やっぱり今もまだ池上の事を……と、考えるのは、これまた考え過ぎだろう。
単に付き合っても良いと思える男子がいなかったと考えるほうが自然だな。
そもそも、池上との事も噂話で信憑性には欠ける訳だし……。
「えっと……じゃ、両方出演するって事でオッケーかな?」
姉御の言葉に僕等は頷く。
◇ ◇ ◇
今日は12月24日、俗に言うクリスマスイブだ。
イエス・キリストの生誕祭の前夜祭。
国外では家族と過ごすのが一般的なようだ。
まぁ、こと日本では恋人達の祭典としての風潮が強い訳だが……なんて話は僕にはまったく関係なく、クリスマスライブなるイベントに参加している。
自分達で企画したライブではなく、いつも使うライブハウス・ボウル企画のイベントだ。
最近ではお店の人とも仲良くなり、今回の出演を斡旋された。
因みに出演を斡旋されたのは今回が初めてだったのだが、年末の年越しライブも薦められて、そちらも出演することに決めた。
今日のイベントは出演五組。
日が日なだけに人が集まるか心配していたが、思っていたより客入りは良かった。
大きな失敗も無く、無難に楽しめてしまったライブだった為、取り立てて語るような出来事が無かったが。
◇ ◇ ◇
僕は木田と夜道を歩いていた。
ライブが終わり、出演者達で打ち上げ兼クリスマスパーティーを行った後、時間が遅くなってしまった事もあり、僕と木田は宮田と姉御を家の近くまで送り届けて今はその帰り道。
「いやぁ、俺がこんなにちゃんとバンドやるとか実際全然考えてなかった」
「僕もベース始めた頃に、ここまでちゃんとやる事は考えて無かったよ」
「だって、今日クリスマスイブだぜ?普段は彼女作って過ごすのに必死になってる奴ばっかり見てるのに、俺なんてバンドで一日終わりとか……。まぁ、別に楽しんでやってるからいいんだけどさ。……ってかホッシーはマジで彼女とか好きな子とかいないの?」
「いや、さすがにいない事は知ってる筈だよね?」
「あぁ。聞いたことは無かったなぁ……。けど、そういう話をちゃんとした事も無かったと思ってさ。知らないところで付き合ってたりしてるのかな?とか、思ったわけよ」
「普段一緒に居れば分かるだろ?付き合ってる感じの子とかいないだろ?」
「確かになぁ……でも、さ」
「でも、何?」
木田は少し言い辛そうな感じで――
「……実際、ホッシーとミヤちゃんてどうなの?」
「どうもないよ、同じ学校、同じクラス、バンドメンバーで友人の女の子」
「だからさ、そこまでの距離になると自然と密接度って増していくじゃん。その中で生まれてくる感情って全然無いのか?」
「何が言いたいのさ?」
「ホッシーはミヤちゃんの事が好きなのか?って聞いてんだよ」
単刀直入すぎて、嫌悪感のない質問ではあるのだが……返答に悩む。
いやいや、悩む質問でも無いだろう僕。
だって、恋愛対象には見れないとかそんな事言ってたのは僕自身だし、あれから結構時間経ったけどそこまでの心変わりをした自覚は無い……と、思う。
「……当然、好きではあるよ。友達としてね」
「そういう話とは違うだろ?恋愛対象としてだよ?」
僕は黙り込み考えた。
この流れから、この後どんな話が出てくるのかも含めて――
「……いや、今のところそういう見方はしてなかったから考えてもいないと言うか、それは無いというのが正しいか分からないけど……。とりあえず、そういうふうには考えて無いですかね?」
僕は多分、何一つ嘘はついていない筈。
若干、引っかかる部分が無きにしも非ずだが現状ではなんとも言えない。
「何だよその口調」
木田は軽く笑う。
「いや、なんというか本当にそういう対象として見たことが無かったから……」
すると木田は一変し真面目な表情で――
「俺はその言葉を信じていいんだよな?」
「はっ?」
「だからさ、ホッシーがミヤちゃんの事を恋愛対象として見ていないっていう話」
「あっ……う、うん」
「そうか、良かった……。そこが一番気に掛かってたんだ」
ここまで聞くと、いくら鈍い僕でも分かってしまう。
その先の言葉はあまり聞きたくない。
出来れば僕の予想を裏切って、全然関係の無い話でしたっていうオチを付けてもらえれば良いのだが……。
「俺さぁ、ミヤちゃんの事、本気で好きになったみたいだ」
予想的中。
まぁ、そういう話になるんだよなと思ってはいたが……。
「そう……」
僕はその言葉しか出なかった。
「えっ、反応それだけ?もっと驚くとかそういうの無いの?」
「いや、何だか急すぎて逆に……」
あぁ、面倒だ。
池上の忠告が現実と化した訳か。
そもそも、どんなつもりで池上はあの台詞を言ったのかが、今になって気になる。
そんな事より目の前の問題だ。
木田の性格からして、いきなり告白して撃沈とかは十分あり得るし、その場合は冗談を抜きにしてバンド解散の危機ではある。
解散はしなかったとしても、今までと同じという訳にはいかないだろう。
そして、もし上手くいってしまった場合は……。
先の会話から察するに、それを食い止める術を僕は持っているのかもしれないが、現状ではそれを口にする事が出来なかった。
正直、考えることすら面倒になっていた。
『もう、なるようになれ!!』そう思った。
◇ ◇ ◇
街並みはクリスマスが終わった途端、すぐに新年を迎える準備に装いを変えていた。
なんともめまぐるしく、節操の無い時期だ。
少しは宗教的なものを考えてみてもいい気がするが……などと感じながらもイベントを前にして盛り上がっている雰囲気が実は嫌いではない。
しかしながら僕は、いまいち気持ちが晴れず、やや苛立っていた。
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