第19話


 スタジオからの帰り道。

 珍しくというか、この半年近くで初めて、僕は姉御と二人だけ帰宅する事となった。

 だからと言って、今更特に意識する事も無い。


 「……よく分からないんだけど、どうして宮田はあんなに機嫌悪くなったんだろう?確かに茶化されたのが嫌だったのかも知れないけど、そこまで怒る事でも無いと思うけど……」


 僕が何気なくそう言った後、姉御は少し困った表情で――


 「……いや、あたしは分かってた筈なんだよね。ちょっと調子に乗っちゃったなって反省してる」

 「分かってた?反省?話が見えないんだけど」

 「……そうだよね。言っちゃってもいいのかな?……けど、知ってた方が未然に防げるし」


 悩んでいる様子の姉御。


 「いや、そこまで聞いちゃったら気になるから……何か心当たりがあるの?誰にも言わないって約束するから教えて欲しいな」

 「そう?誰にも言わないって約束できる?当然ミヤにもだよ?」


 なんだか悩んでいた割に、やけに活き活きしている感じもする。

 たぶん本当は話したくて仕方が無いんだろうなぁ、というのが感じ取れる。

 ……姉御って思ったよりも口が軽いのか?

 そうは思いながらも、やはり話が気になる僕は「うん、約束する」と、深く頷いた。


 すると姉御は思い出すような素振りをして話し始める――


 「確か中三の頃だったかなぁ……?ミヤは、まぁ今とそんなに変わらなかったけど、今よりはもう少し男子とも交友あったりして、それなりに人気もあったりしたんだけど、特定の彼氏とか作らなかったんだよね。で、そうなると、一部の女子から嫌われたりして……。そういうのも気にはしてたんだけど、ある時、池上と外で会ってるのを見たっていう子が出てきて、その噂が広まって……」

 「えっ?池上って僕と同室のあの池上?」


 僕は予想外の展開に驚き口を挟んでしまった。


 「そう。で、その頃からそれなりに女子に人気のあった池上だったから、余計に妬みの対象になっちゃってね。二人は付き合ってて、それを隠して面白がってるなんてデマも流されたりして……。ミヤの事を妬んでた子とか、池上に振られた子の一方的な逆恨みだとは思うけど……」

 「けど……?」

 「……ミヤも池上も否定してた。でも、そういう噂が広がるのは早くてね……。当然あたしはミヤの味方だったけど。それでも、陰でだいぶ酷いことも言われたりしたみたいで、結構深刻になってた時期もあったから……。一種のトラウマになってるのかも……。それ以降、ミヤに対して恋愛関係の話はしないようにしてたんだけど……今日は、ついうっかり」


 その話を聞いた事に、僕は少し後悔した。

 宮田を不憫に思う気持ちもあったが、それ以上に 僕の近しい人間が二人も絡んでいるというのが面倒だ。

 お互い否定していたとは言っても、火の無い所に煙は立たないと言うし……。

 何かあると思うのが当然で、案外、宮田が再びバンドを始めたのもそのあたりが関係しているんじゃないのか?と、邪推すらしてしまう。


 「うん、僕も下手なこと言わないように気を付ける」

 「っていうか、絶対秘密だから。誰にも言っちゃ駄目だからね」

 「うん」


 僕は再び深く頷く。


 というか地雷源かもしれないものが設置されている事を知った以上は、何もわざわざ自ら飛び込むことは無い。

 「この話は木田にも絶対内緒だから」と、姉御は念を押したところで、僕と別れた。


 宮田と池上かぁ……。

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