第18話


 学園祭が終わり一週間が過ぎた。


 学園祭ライブは、僕が個人的に学んだという以外にもバンドに……いや、主に宮田に大きな影響を与えた。

 まさしく、宮田がブレイクしたといっていいだろう。

 あくまで校内での話だが……。


 僕には間抜けにしか見えなかった学園祭ライブのコスプレ効果もあってか、男子人気が急上昇したそうだ。

 クリスマスまで一ヶ月程という季節もあいまってか、既に五人程の男子から告白されているらしい……と、僕の友人が言っていた。

 又聞きの又聞き、信憑性があるのかないのか分からないが、逆にもっと多いという可能性もある。


 当然、僕の評価も多少は上がったかも知れないが「凄いね」と、言われる程度。

 まぁ実際はそんなもんなのだろう。

 となると、根本の違いか?

 などと考えるだけ虚しくなる事は極力考えないようにする。


 そして、告白されているという話は聞いたが、返事に関しての情報は無かった。

 どうなんだろ……?いや、どうでもいいけど、他人の事とか。

 ……けど気にはなる。



 少しモヤモヤしながら、机で寝ている僕に宮田が話し掛けて来た。


 「そういえば、木田君が体調崩して今日のスタジオ来られないってメッセ来てたけど、今日はどうするの?」

 「そうなんだ。見てなかった」


 そう言って僕は携帯電話を確認する。

 確かに木田から連絡が来ていた。


 「どうする?」

 「ギターがいないと通常の練習するのは難しいかもね……かといってキャンセルするのも勿体ない気がするし」

 「じゃあ、とりあえず入ってみてから考える?」

 「そうだね、僕も何か考えておくよ」


 まぁ、音出すだけでも練習にはなるのかな……?



  ◇  ◇  ◇



 学校が終わりスタジオに入った僕達。

 各自セッティングを終えたところで、姉御が言う。


 「で、何やんの?」

 「いや、色々考えて見たんだけど、どうする?とりあえず曲やってみる?」



 ギター抜きで曲を演奏してみる事にした僕等だったが、一曲終わったところで、かなりの微妙さに気が付き、他の事をしようという話になった。


 「あっ、じゃぁ私ベース弾いてみたい」


 宮田が僕に言う。


 「まぁ、別に良いけど……なら、僕はドラム叩いてみたいな」

 「え?じゃ、あたしは何をすればいいのよ?」


 姉御は少し呆れた様子だ。


 「僕にドラム教えてよ」


 僕は宮田にベースを渡し、ドラムの方に向かう。


 「私は誰にベース教わればいいのよ?」

 「なんか適当にそれっぽく弾いてれば良いと思うよ」

 「何それ?出来る訳ないよ」


 そう言う宮田を無視して、姉御からスティックを受け取り、ドラムセットの前に腰掛けてみる。


 座ってみるとそれだけで叩けるような気分になったのもつかの間――


 「姉御。何すればいいの?」


 その後、簡単なエイトビートを姉御に教えて貰ったのだが、なかなか思うように体が動かず自分にドラムは向かないんだろうな、と自覚した。


 ドラムから離れ、暇を持て余し宮田にベースを教えてみた。



  ◇  ◇  ◇



 何の練習にもならない一時間が終わり、僕等は休憩所で休んでいた。


 「木田が休んだだけで結構何にも出来ないもんだね」


 僕は二人に言う。

 もう少しやり方はあったのかもしれないが、今の僕等にはそのノウハウが無いことも自覚している。


 「そうだよね、やっぱり楽器が欠けちゃうと難しいよね」


 宮田は歌という立場からの意見なのだろう。

 

 「あんなのでも、居ないと駄目なんだね。居てもうるさいんだけど……」


 姉御は素直ではない言い方をする。


 「姉御って木田に対してやけに厳しいよね?なんで?」


 僕が訊くと、姉御は少し考え込む。


 「……う~ん。理由ねぇ?バイトで木田が入ってきた時の教育役やらされてたから、その延長線って感じなのかも?」

 「そうなんだ、姉御が木田の教育係だったとか、似合い過ぎてて面白い」

 「まぁ、憶えは早かったけどね。やっぱり無駄に頭いいよあいつ」


 「あれ?真衣ちゃん?ちょっと木田君の事が気になってたりする?」


 宮田は姉御をからかう。


 「そんな訳ないでしょ。在り得ないから」


 ちょっと恥ずかしそうに怒る姉御。

 んー、その反応は……?

 いや、やっぱり僕にはよく分からないな。


 「それより、宮田はどうなの?その辺。学園祭以来、大人気らしいけど……?」


 僕もちょっとだけ気になっていたので、皮肉も混ぜて茶化しながら訊いてみた。


 「そうそう、ウチのクラスの男子もミヤの事を紹介してくれって奴増えたし、ミヤはその辺どうなの?」


 姉御も僕の話に乗る。

 仕返しの意味もあるのかなぁ?


 「……その辺って、何も無いけど……」


 宮田は俯く。


 「そんな事もないでしょ?それともお目当ての男子でもいるのかなぁ?」


 立場の逆転した姉御は楽しそうに宮田を追い詰める。

 こういう場面を見ると普通の女子高生なんだなぁ、と感じる。

 普段はクールで大人びた感じだから、微笑ましい光景ではあるのだが、宮田の表情は浮かない。


 「真衣ちゃんには関係ないでしょ!?私だってこんな風になるとは思ってもいなかったし、そんなの望んでなかったんだからっ!」


 宮田は怒りを露わにする。


 「あっ……ごめん。そういうつもりで言った訳じゃなかったんだけど……」


 急に態度を変え、申し訳なさそうに謝る姉御。

 この展開は予想していなかったので、僕も少し萎縮した。


 「あっ、うん……こっちこそごめん……」


 自分の態度に気が付いたのか、宮田も謝る。


 「…………」

 「…………」

 「…………」


 皆、発せられる言葉が無く、暫く沈黙した。

 木田が居てくれたら、この場を煙に巻くような一言を言ってくれたんじゃないだろうかと考えたが、こういうときに限って木田は居ない。


 沈黙を破ったのは宮田だった。


 「何か、変な空気になっちゃったし、今日はもう帰るね」


 僕と姉御は頷く事しか出来ず、帰る宮田を見送った。


 残された僕達もいつものファミレスに寄る事無く帰ることにした。

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