第17話
月日は流れ、十月。
夏休み中のあれやこれ、というイベントもあったような無かったような……。
僕に関して言えばバイトとバンドだけでほぼ消えていった。
当然、九月も。
バンドに関して言えば高校生ライブイベントの時に知り合ったバンド(池田擁するバンド)と、一度タイバンでライブを行った。
いつものライブハウス、ボウルで。
あと、八月には一曲だけだったオリジナル曲も現在では少し増え、コピー曲と半々くらいの曲編成になっていた。
そして、僕等は学園祭ライブに出る事を決めていた。
で、今日がその当日――
僕と宮田はクラスの出し物、古本屋という地味極まりない上に手抜きの塊を少し抜けさせて貰い、体育館の用具倉庫改め、出演者控え室に到着した。
到着したところで、僕は宮田に気になっていた事を訊いてみた。
「宮田、その格好でやるの?」
「えっ?……これも可愛いかなと思って」
宮田は猫?犬?を模した着ぐるみの頭以外を装着している。
ウチのクラスの客寄せ用の着ぐるみだ。
「なんというか……動きづらくないの?」
「うん。思ったより大丈夫」
「いや……それだけじゃなくて……。まぁ、いいや」
「ミヤちゃん、すげー可愛いじゃん」
先に待っていた木田が近寄ってきた。
木田はウチの学校の生徒ではない為、私服で来ている。
「へへ、そうでしょ?気にいったから借りてきちゃった」
「動き辛そう、暑そう、臭そう、馬鹿そう」
僕は思いついた限りの罵倒をぼそりと呟く。
「何でよ!!」
怒る宮田だったが、それを無視していると――
「もう皆集まってたの?」
メイド服姿の姉御が現れた。
その姿を見た瞬間、僕等メンバーは大笑いした。
姉御のクラスの出し物が喫茶店で、その衣装だというのだ。
それなりに似合ってはいるんだが、キャラクターが似合わない。
姉御は恥ずかしそうに怒るが、またそれが笑えた。
暫く笑い転げた後、僕は――
「あれ?そういえば、池上ってまだ来てないよね」
辺りを見回してみる。
池上は今回、自分のバンドではなく、学校の友人だけで作った学園祭限定バンドで出演するらしい。
浜野君も参加するのかと思ったが、浜野君はそういうお祭り騒ぎが嫌いらしく断られたそうだ。
「おっ、コムの面子は集まるの早いな」
池上が現れる……何故かエプロンを着けている。
「池上……。何?そのエプロン?」
「あぁ、制服だと面白くないから着けたままやることにした」
そうか、姉御と同じクラスだから喫茶店の調理場か――と、納得した後、宮田は別としても制服だとつまらないって言われちゃうと「僕はそのまんま制服なんだけど」と考えてしまった。
まぁ、衣装なんて何でもいいや……ということではいけないのかもしれないが、とりあえず今日はもうこれでやるしかない。
この数ヶ月、様々なバンドのライブ映像を見た。いや、見せられた。
元々音楽は好きだったが、音源を聴くことはしても映像として見る事は少なかった。
だが、池上に言われて勉強も兼ねて見るようにしたのだ。
魅せ方というものは耳で聴くだけでは知ることが出来ず、それこそがライブの醍醐味だと池上が熱弁したからだ。
そこに衣装や髪型も関係してくるのだと。
とはいえ、エプロン姿はどうだろう?それでも池上ファンは喜ぶんだろうな。
理不尽なものだ。
結局素材じゃん。
「コムが一番手だっけ?」
池上が訊いてくる。
「そうだよ」
「今回は俺が胸を借りる番かな。どのくらい上手くなったか見せて貰うよ」
「うん、僕等も6月の頃とは流石に違うよ」
色々と予定が合わなかった為、池上が僕等のライブを観るのは6月の初ライブ以来となる。
実は、大してモチベーションの上がらない学園祭ライブだったのだが、池上の一言で俄然やる気が出た。
成長した僕等の姿を見せてやろう――と。
◇ ◇ ◇
僕等コムのメンバーはトップバッターでステージに上がった。
客の入りはまぁ、数としては上々。
ライブハウスではありえない人数ではあるが、学園祭開催中の一行事である以上、空間は目立つ。
って、野外ライブの時も同じように感じたか。
そんな事はさておき僕が今日見せるべきは、池上。
池上にどれほど上達したか見せ付けてやりたいのだ。
宮田が他愛もないMCを終え、姉御のカウントで僕等は演奏を始める。
いつもより高いステージから見える客席が僕のテンションを少し上げた。
◇ ◇ ◇
演奏を終えた僕等は、客席から他のバンドの演奏を観ていた。僕等以外に三組出演していたのだが、どれも正直……微妙だった。
その中には当然、池上を擁するバンドもあったのだが、なんというか……迫力がなかった。
池上は変わらず上手かったが、周りを固めるメンバーが微妙。
他のバンドもライブ経験の少ないバンドだったようなので、仕方がないか。
そこで僕は理解した。
ライブで重要なのは演奏力だけでなく”魅せ方”だという事、そしてバンドは個人戦ではなく団体戦だという事。
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