第16話


 色々すっ飛ばして夏休み。

 今日はこの辺りの楽器屋とライブハウスが共同で開催する、高校生バンド限定のライブイベントの日。


 参加するのは周辺の高校のバンドだけで、たいした規模のイベントではない。

 しかしながら十組程も参加するようだ。


 池上のバンドはメンバーの中に大学生もいるので参加していない。


 会場は野外ステージ。

 野外初挑戦!――と、言ってもまだ一回しかライブしたことが無い僕等は屋内が慣れているという訳でもないので、さほど気にしていなかった。



 出演者が集まるテントに僕等コムのメンバーが到着すると、そこには同年代の学生達が集まっていた。

 さすがに同年代で集まると、男子バンドだけでなく女子バンドもちらほらいる。

 なかには宮田、姉御、木田それぞれの知り合いなどもいて話が盛り上がっていた。



 「あれ?保科?」


 僕はいきなり声を掛けられて、声の主の方を見る。


 「ん?池田いけだ?」


 声を掛けてきたのは中学の時の友人だった。


 「おぉ、やっぱり保科か。お前バンドなんてやってたのか?」

 「高二になってから始めたから、まだ初心者だよ」

 「へぇ。それでもうライブとかやるんだ。すげぇじゃん」

 「まだ今回で二回目だけどね」

 「いやぁ、でもすげぇよ。メンバーもそんな感じ?」

 「皆バンド経験はあんまり無いみたいだけど、僕より音楽暦は長いよ。あぁ、同中の木田もメンバーだし」

 「あぁ、お前達仲良かったもんな。俺はあんまり木田と話したこと無いけど」

 「ふーん。だけど、池田が居るとか思ってなかったから結構意外」

 「それは俺も同じだよ」


 僕等は笑いあった。

 その後も少し思い出話等をした後「ライブ見せて貰うよ」と言って、池田は去っていった。

 大した事では無かったのだが、出演者が知らない人ばかりでは無いという事実が少しばかり緊張を解してくれた。



  ◇  ◇  ◇



 思っていたよりも簡単なリハーサルを終え、間も無く開演した。


 お客さんは無料ということもあり、ライブハウスより人数は居るのだが、何しろ広い分空間が目立つ。

 そんな事を気にしている余裕が無い僕には、あまり関係の無い事ではあったが……。


 幾つかのバンドのライブを観ていると、僕等の出番が近づいてきた。



  ◇  ◇  ◇



 僕等コムのメンバーは集まって、なんとなく円陣を組んでみる。


 「お祭りみたいでなんかいいね」


 宮田は笑みを浮かべて言う。

 まぁ、一応お祭り?なのかもしれないが。


 「急に凄いバンドになったように感じるよな」


 木田もニヤニヤしながら言う。


 「気持ちは分かるけど、浮き足立たず、まずあたし達の出来ることを全力でやろう」


 姉御はあくまで冷静だ。

 そして僕は自分に言い聞かせるかのように――


 「とりあえず、楽しめるようにやってこよう」


 「うん」「おう」「よし」三人は各々答える。

 僕等はステージに向かった。



  ◇  ◇  ◇



 ステージに立った僕等は各々準備を始める。


 準備を終えた僕は会場を見渡す。

 相変わらず空間だらけの客席。

 ライブハウスよりも広いステージ。

 天井は、青天井。


 ふぅ。――一―と、ひと息ついて考える。

 環境は違えどやることは同じ、今回は演奏を、そしてこの状況を楽しもう。



 「コムって言うバンドです。よろしくお願いします」


 宮田が簡単な挨拶をすると姉御がスティックでカウントを始めた――

 僕等は演奏を始める。


 先ずは自分の演奏とメンバーの音に集中。

 その感じを掴めて来たら軽く客席を眺め、その次はメンバーを見る。


 楽しもう。

 演奏する事を。

 自己暗示――そういうものだと教わった、池上に。

 「どうせ素人のライブなんて本気で観に来てる奴なんていないんだから、演奏する方が勝手に楽しめばいいんだよ」と、池上の言った言葉に僕は納得した。


 緊張するって事は観られてると意識している証拠だ。

 自意識過剰。

 誰も本気で僕を観ようとなんてしていない。

 僕等が勝手に観せようとしてるだけ――ある意味強要。

 ならば、僕等が僕等で好きなようにやればいい。

 それくらいの練習はしてきたつもりだ。


 観られる事を楽しめって事も池上は言っていたけれど、今の僕はまだそこまで到達出来てはいない……。


 誰も観てはいない、そう考える事で少し気が楽になった。

 前回よりも皆の音が良く聞こえる。

 皆の動きが良く見える。


 そして、池上はこうも言っていた「とりあえず、客席見て緊張するなら落ち着くまでメンバーのほう見てな。スタジオの時と変わらないから」っと。


 他のメンバーを見てみると結構楽しそうにやっている。

 姉御は安定しているし、木田はまぁ、それなりに頑張っているんだろうなと感じる。

 宮田は……カッコイイ。

 ……のかもしれない。

 普段の宮田を見慣れているからこそ思うのかも知れないが、別人にすら思えてくる。

 「ふーん、やるなぁ」っと、僕は素直に感心していた。

 上から目線もどうかと思うが……。


 そこで初めて気が付いた。

 今回はいやに余裕があるという事に。

 前回は自分の事すら、よく憶えていなかったのに……。


 多分これも池上が、メンバーを見るところから始めてみろって言った理由なのだろう。

 いつものメンバーだけど、いつもと違う。

 それを見ているだけでも楽しいし、面白い。


 落ち着いてくると、どんどん演奏が楽しくなってきて、人が観てる事なんて頭の中から消えていった。

 ……そう、ただ、演奏を楽しんでいた。



  ◇  ◇  ◇



 演奏を終えた僕等は出演者テントで休んでいた。


 「何か今日の良かった気がする」


 宮田は満面の笑みを浮かべて言う。


 「うん、今日は僕も楽しかった」


 僕は呆けて、素直な感想を言った。


 「いやぁ、今日のって結構イケてたんじゃね?」

 「あんた自身は勘違いだと思うけど、バンド自体は良かったと思う」


 木田も姉御もそれなりの手応え感じていた様だ。


 今日のライブは僕個人としても、色々な意味で収穫のあるライブだったと思う。

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