第15話
いつものファミレスでスタジオ練習後のミーティングを行っている僕等。
「えっ?ミヤが歌詞書くの?」
「うん、やってみようかなって」
「えーっ、ミヤちゃんの歌詞とかチョー見たい」
すっかりいつもの木田に戻ったようだ。
こういう軽い態度がいけないのだと注意したかったが止めておいた。
「まだ、完成してないから今日は鼻歌だったけど……次回はちゃんと歌えるようにしてくる。メロデイーは少し歌いやすいように変えちゃうかもしれないけど……」
「あぁ、後ろの演奏はともかくとして、あの鼻歌は酷かったから仕方ないんじゃない?」
「あれは無いね」
姉御と木田からもそう言われると凄く傷つく。
元々女性ヴォーカル用の音域とか僕には無理だから……と、言い訳させて欲しい。
そのヘコんでいる僕の様子を感じ取って――
「まぁ、全体的には良く出来てたよね」
宮田が僕をフォローした。
「初めてであれなら上出来だよね」
続いて姉御もフォローに入る。しかし木田は――
「ギターフレーズとか格好良かったしな」
「それは、池上の功績だよ」
僕は思わず突っ込んでしまった。
「そういえば、歌詞って少しは出来てるの?」
姉御が宮田に尋ねる。
「うん、少しだけなら……」
「えっ!?じゃあ教えて教えて。ミヤがどんな歌詞書くのか知りたい」
「あっ、それ俺も知りたい」
「僕も気になるかなぁ」
「ちょ、ちょっと待ってよ。まだ完成してないし、人に教えるのとか恥ずかしいから……」
宮田は僕等の質問攻めに、おののく。
「歌うんなら同じじゃない?僕もどんな歌詞が付くのか見てみたいし」
僕がそう言うと少し考える宮田だったが、恥ずかしそうに――
「真衣ちゃんになら、少しなら……」
「えーっ、男性陣は駄目なのぉ?」
木田は不満そうに言う。
しかし、それを無視して、宮田はスマホを操作して姉御に画面を見せる。
姉御は真剣に画面を読んで、後――
大笑いする。
「ちょっと!!真衣ちゃん酷くない?」
宮田は少し怒った感じで、スマホを隠す。
「いやいや、いい歌詞だと思うよ?女の子っぽくて。あたしには絶対書けないもん」
「絶対馬鹿にしてるでしょ?」
「本当にそんなこと思ってないから。ただ、こういうのって見るとどうしても楽しくなっちゃうでしょ?だから許して」
「……もう!」
怒った感じの宮田ではあるが、内容の分からない僕等男性陣は何が何だかさっぱりだ。
仕方ないので僕等だけでボーイズトークでもしてやろうかとも思ったが、気持ち悪いうえに寒いので止めておいた。
◇ ◇ ◇
僕等はファミレスを出た。
姉御が楽器屋に寄りたいと言うと、木田も行きたいと言ったので、そこで解散して僕と宮田は二人で帰路に付いた。
「宮田はさ……どうして急に歌詞書こうと思ったの?最初嫌そうだったじゃん?そもそもバンド自体やりたくなさそうな感じだったよね?」
「ん?……そうだなぁ……。少し恥ずかしいけど……。私って昔から歌を歌うのは好きだったの。歌手になりたいと思ってた事もあるしね……。すごいちっちゃい頃の話だけど。……でも、人前に立つのとかって得意じゃないし、憧れでしかなくて。……で、中学の時にバンドやるってなって、結構楽しみだったんだ」
「へぇ、色々意外」
「でも、私もメンバーの皆も緊張しちゃってね……。それこそ、今みたいにちゃんと練習出来た訳じゃなかったし……。皆、この間の保科みたいな感じで、それはもう酷かったと思う。で「もう二度とやるかーっ!!」て思ってたんだけど、保科が最初にスタジオ入った時に真衣ちゃんと池上君の演奏を見て、こういう中でならもっと楽しく出来たのかなぁ?って思ったら急にやりたくなってきたの。今の保科と同じでリベンジしたいっていう感じかな?」
「リベンジねぇ?」
「それで、実際にライブとかやってみたら楽しくて、どうせなら自分の歌を歌ってみたいなぁ。って思うようになったのが一番の動機かな?」
「そうだったんだ。意外といえば意外だけど、少し納得できた」
「目立つ事が好きっていうよりは歌が好きなんだけどね。目立つ事が好きな役目は弟に任せてるから」
「弟いたんだ?」
「うん、弟は無駄に目立ちたが屋だから。で、その全く逆で、お姉ちゃんは私なんかよりもずっと恥ずかしがり屋。普通に社会生活送れるのか不安なくらい……。で、そういう兄弟に囲まれて、私の役割は普通でいることなんだなって思ってたんだけどね。でも、私ってちょっと弟寄りかも?って、最近少し思う」
「まぁ、兄弟だし似てるほうが普通かと思うけど……」
「もっとも、私は弟みたいに悪目立ちしたいとは思わないけどね」
どんな弟か気にはなったし、お姉さんの事も初耳だったので聞いてみたかったが、敢えて聞かなかった。
話の方向を変えたせいで、自分の家族の話をするのも面倒だし……。
「保科って兄弟とか居るの?」
結局は僕の家族の話になるのか……。
「妹が一人。あんまり似てないけど……性格も見た目も」
「へぇ。でも似てないと思ってても傍から見ると意外とそうでもないかもしれないよ?」
「そうかなぁ……?」
「そういうもんだって、さっき自分で言ってたでしょ?」
「まぁ、何にしてもバンドを楽しんでくれてるなら良かったよ。無理に付き合わせてるんじゃないかって少し心配してたから」
少し強引に話を変える作戦に出た。
その時突然、少し前を歩いていた宮田が立ち止まって振り返る――
「無理してなんて付き合わないよ……。でも、どうしてそんなふうに思ったの?」
「どうしてって言われても……?」
この部分に切り返しが来るとは思っていなかったので、何も考えていなかった僕は戸惑う。
「……友達だから?」
僕がそう言うと宮田は再び前を向いて歩き始める。
「そっか」と呟いた気がした。
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