第12話


 「夏休み中にある高校生バンド限定のイベントに出てみない?」


 スタジオ練習後、いつものファミレスでいつも通りバンドミーティングと銘打った雑談会をしていた。

 そこで僕はメンバーに提案してみた。

 

 「でも、この間ライブやったばっかりだし。そんなに急いでやらなくてもいいんじゃない?曲も変わらなくなっちゃうし」


 姉御は冷静に言う。


 「いや、今だからこそやりたい。鉄は熱いうちに打てと言うじゃん」

 「でも、曲はどうするの?また同じ曲?」


 姉御は問い詰めてくる。

 あまり乗り気では無いのだろうか?


 「基本的にはこの間と同じで1、2曲追加する感じで良いかなと思ってるんだけど」


 僕がそう答えると――


 「どうせなら、オリジナル曲とか作ってみない?」


 軽いノリで木田が提案する。


 「オリジナル曲なんて誰が作るんだよ……。僕達初心者だよ?一ヶ月ちょっとしかないんだから間に合わないだろ」

 「そうかなぁ?なんか最近、曲弾いてて出来ない事は無いような気がするんだけど」


 確かに言われてみれば出来ない事もないように感じてしまったが、そもそもどういう順序で作って、どうメンバーに伝えればいいのかが分からない。

 メロディーを鼻歌でも歌って録音すればいいのか?でも、メロディーが出来たとしても、それにどうベースとかギターを付ける?

 そんな腕が僕達にあるか?


 「あっ、でもそれ、ちょっと面白そうだね。やってみたいかも」


 宮田は僕の不安をよそに楽観的に言う。


 「うん。あたしもそういう感じならやってみたいかな。木田もたまには良い事言うね」


 最後の砦だった姉御も賛成している様子だ。


 意外にも皆が乗り気なので、僕も少しだけ興味が湧いてきた。

 池上達は全曲オリジナルだった気がするし……。


 「……じゃあ。まず何すればいいんだろ?」


 僕は皆に尋ねるでもなく、独り言のように言う。


 「そりゃあ、経験者が身近に居るんだから訊いてみりゃいいんじゃん。そういう意味ではホッシーに先導してもらうのが一番じゃね?」


 木田は簡単そうに言う。

 が、僕もそれが現実的だろうとは思った。


 「あっ、そうだ。少し話題逸れちゃったけど、結局ライブはどうする?」


 僕は思い出したように確認してみると、オリジナル曲を作るという前提で、参加する方向に纏まった。



  ◇  ◇  ◇



 「オリジナル曲か……結構、気が早いな」


 寮に帰った僕は、池上に曲の作り方を尋ねてみた。


 「……やっぱりそう思う?まだ早いかな?」

 「いやまぁ、そんなことも無いけど……。コピーばっかやってても面白味に欠けるしな。折角、自分達で演奏してるんだから自分達の曲を演奏した方が気合は入る」

 「それじゃ、まず何をすればいいのか教えて下さい」


 僕は池上に頭を下げる。


 「どんな感じの曲を作りたいとかイメージはあるのか?」

 「とりあえず、メンバーの意向としてはポップなヤツで」

 「ポップねぇ……」


 池上はやや難しい表情をしながら、ギターを手に持ち演奏を始める。


 「アバウトすぎて難しいけど、それっぽい進行考えてみるから、保科もベース持って」


 僕は急いでベースを取り出し、池上の指示に従う。


 その後、色々な指導を受けながら曲作りは朝まで続いた――。



  ◇  ◇  ◇



 僕はその日、教室の机でいつもより深く眠りについていた。


 授業中も休み時間も関係なくぶっ通しで……。

 幸い誰も起こさなかった。

 それが幸いかどうかは実際悩みどころではある上に、起こそうとしたのかもしれないが起きなかったという事もあり得るのだけれど……。

 周囲もいつもの事と許容してくれているのだろう。


 目が覚めた頃には昼休みになっていた。



 「今日はまた一段とよく寝てたね」


 宮田が寝起きの僕に話しかけてくる。


 「あー。あの後、池上と朝まで曲作りしてたから」

 「えっ?もう始めてたの?」

 「うん、やり始めたらどうにも終わりが見えなくて……気が付いたら朝になってた」

 「それはまた……。で、出来上がったの?」

 「いや、全然……ってことも無いけど、まだまだ直すとこだらけ」

 「へぇ。結構ちゃんとやってるんだね。感心した」

 「そういえば、歌詞は誰が書くの?っていうより、歌うのが宮田なら歌詞も自分で書くか、少なくとも姉御が書くのが良いと思うんだけど……」

 「う~ん、歌詞かぁ。確かにそうなんだけど、やっぱりちょっと恥ずかしいかなぁ?」

 「分かるけど、そこは……。まぁ、曲が出来てからでも良いとは思うけど」

 「そうだね、それ聴いてからじゃないとイメージ湧かないし」

 「じゃあ、頑張って次のスタジオにはデモ渡せるようにするよ」

 「うん。期待してる」


 そう言うと、宮田は他の友達の方へ行った。



 「おっす、起きたか」


 今度はクラスの男友達が話しかけてきた。


 「おはよう」

 「もう、おはようじゃねぇだろ?ってかさ、お前と宮田さんって付き合ってたりするの?」


 またそういう話か……と、多少うんざりした感はあった。

 池上からも聞かれたが、他の人からも同様の質問を受けた事はある。

 バンドを始めてから、以前にもまして話をするようになったのも要因の一つだろう。

 だが、宮田とはそういう関係では無い。


 「全然。さっきのもバンドの話。何で皆そう思うのかな?」

 「そっかそっか、いや、やっぱり健全な高校生だとそういうの考えるからさぁ。それに宮田さんってあんまり他の男子と話してるところ見掛けないし。珍しいってのもあるんだよ。目立つ子じゃないけど意外と気になってる奴多いみたいだし……」

 「へぇ。それは初耳」

 「いやいや、実際なかなかの逸材だと思うよ。この間のライブとかマジでカッコよかったし、カワイかったもん」

 「ふ~ん」

 「って、訳で、宮田さんも連れて後でどっかに遊びにでも行かね?」

 「次のライブも来てくれたら考えるよ」


 僕はダルそうに答えた。

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