第9話


 「――というわけで、ライブの話が来てるんだけど。どうする?」


 僕はメンバーの皆に質問した。


 因みに僕等は今、バンドとして二回目のスタジオ練習に入った後、メンバー全員でファミレスに来てミーティングという名の雑談会をしている。

 そこで先日、池上から受けた提案を話してみた。


 「いくらなんでも急過ぎるんじゃないかなぁ……」


 宮田は不安そうに言う。


 「あたしは別に良いと思うよ?六月の終わりなんでしょ?まだ一ヶ月以上あるし、明確な目標があった方がやる気が出るしね」


 意外な事に岡村さんはやる気がのようだ。何かこう……頼もしい。姉御というあだ名はやはりピッタリだな。


 「俺もやってみたい。面白そう。女の子もいっぱい来るだろうし」


 木田はそう言ったが、僕としては「僕と同じくらいお前が不安なんだよ」と、言ってやりたかったが止めておいた。


 「多数決でいくと、やるほうに決定しそうなんだけど……宮田はどうしても嫌?」

 「どうしてもってことはないけど……保科はどうなの?」

 「僕は……。う~ん。不安ではあるけど……やってみたい……かな?」


 煮え切らない僕の返答を聞いた宮田は少し呆れたような、諦めたような表情をした後――


 「分かった……じゃぁ、やってみる。どうせ、失敗してもどうなるもんでもないし」


 開き直ったような感じで答えた。


 「そうと決まれば練習しよう。週一だと間に合わないかもしれないから週二くらいでスタジオ入るようにしようぜ」


 急に木田のやる気スイッチ?が入ったのか、そんなことを言い出した。

 たぶんその場の勢いでしかないとは思うけど……。


 「でも確かに練習時間は増やしたいね。あたしも何とか時間合わせられるようにするよ。で、何曲くらい出来ればいいの?」

 「えっと。五、六曲あればなんとか形になるって池上は言ってた。それなら間に合うかなって僕も思ったんだけど」

 「確かにそれならちゃんと曲を選べば間に合いそうな気はするね」


 岡村さんは頷いた。


 「今のところ出来るのが3曲だから、あと2~3曲位ならなら楽勝じゃん?」


 木田はいとも簡単そうに言う。


 「……まぁ、やる方向で池上に伝えとくね」


 僕はそう言ってこの話題を締めた。



  ◇  ◇  ◇



 寮に帰った僕は、池上がバイトから帰ってくるのを待ちながらベースの練習をしていた。

 不安だと言いながらも、楽器に興味を持つキッカケとなった場所に立てるというのだから自ずと気合は入る。

 正直、楽しみだ。

 いつも以上に熱心に練習していると、池上が帰ってくる。


 「おっ、練習してるな」

 「うん。それで、ライブの話、受けたいんだけど……」

 「マジか!?……流石に今回は断るかなぁ?と、思ってた」

 「えっ?もう他のバンドに決まっちゃった?」

 「いや、そういう訳じゃないんだけどさ。ちょっと驚いただけ」

 「まぁ、僕だけだったら怖気づいてたかもね」

 「そっか。まぁ、良い事だと思うし、俺も嬉しい。じゃあ、ライブの事について色々説明するな」

 「お願いします」


 僕は池上に頭を下げた。

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