第8話
バンド結成後初のスタジオ練習日。
木田はスタジオ初体験。
戸惑っている様子だったので、先輩面をして機材の使い方を指南した。
池上からの受け売りだが……。
宮田と岡村さんは着々と自分の準備を進め、後は僕を待つのみとなった。
僕はそそくさと準備を進める。
「じゃあ、やってみようか」と、準備の終わった僕が、合図をして演奏を始める。
前回と変わらずテンションは上がるのだが、やはり池上の演奏と比べてしまうと木田の実力は格段に落ちてしまう。
経験値を考えれば仕方が無い事だが……。
前奏が終わり、ここからは初体験のヴォーカルが入る。
実際のところ、宮田の歌は聴いたことが無い。
どんな感じになるのか期待半分、不安半分という感じだったが――そんな考えは一蹴された。
上手い……のか、どうなのかは実際良く分からない。
あまり女子とカラオケに行く機会も無いし、カラオケ自体あまり行かないので一般的な歌唱力が良く分からない。
ただ、少なくとも下手って事は無いと思う。
そして、バンドとしての一体感というか、歌が入っただけなのに演奏だけの時とはまったく違う感覚。
演奏自体は前回よりも下手になっている筈なのだが、僕としては前回以上の高揚感を感じた。
一曲目の演奏が終わり、宮田に一声掛けようとすると――
「ミヤちゃんすげー上手いじゃん。かっこいいし、カワイイ」
木田が先行して声を掛ける。
「あっ、ありがとう」
照れくさそうにする宮田。
先を越され、多少言いづらくなったが、僕も思った事を正直に伝えた。
「うん、案外よかった。木田はいまいちだったけど」
「え?俺いまいちだったか?」
「やっぱりミヤはバンドとか似合うよ。歌上手いし。木田はいまいちだったけど」
岡村さんもドラム越しに会話に参加してくる。
それを聞いて、やっぱり宮田って歌上手いのか?と思いながらも、只のお世辞か?とも考えてしまい結局よく分からない。
「なんかそんなに褒められると照れるね」
恥ずかしそうな素振りで頬を赤らめる宮田。
「俺も少しは褒めてよ~」
木田が何か言っているが、無視。
「じゃあ、早く次の曲やろ」
と、僕はメンバーを先導した。
◇ ◇ ◇
スタジオの時間が終わり、僕等は休憩所で飲み物を買い休んでいた。
「思ったよりもバンドって楽しいな。これなら俺も続けられそう。ミヤちゃんカワイイし。姉御は怖いけど」
「へぇ。じゃあ、その恐怖をもっと深く刻んであげようか?」
岡村さんはドラムスティックを持ち、音を立てて素振りをする。
「冗談、冗談。姉御も十分カワイイって」
木田は苦笑いで僕の影に隠れる。
「まぁ、木田も楽しんでくれたならよかったよ。演奏的には僕等まだまだかもしれないけど、今日スタジオ入って本当にバンドやってるんだなって実感出来たし。皆本当にありがとう」
なんとなく僕は頭を下げた。
その姿を見た三人は――
「別に、私も久々にやってみたかっただけだから」
「俺もちょっとは興味あったしな」
「あたしは元々やりたかったしね」
口々に言う。
「じゃあさ、さっそくバンド名とか決めようぜ」
木田が乗り気で言う。
「確かに名前あった方がバンドって感じするよね」
宮田も乗り気だ。
確かにせっかくバンドを作ったのなら名前はあった方が良いと思うけど、少しも考えてなかった。
そもそもこんなにサクサク事が進むとも思ってなかったし……。
「皆は何か候補とかあるの?」
自分に案が無いので皆の意見を訊いてみる事にした。
全員考え込む。
…………
沈黙が長くなり、皆誰かが口火を切るのを待っている様に感じた。
何か出さないと進まないと感じた僕は、深く考えずに思いついたことを口にしてみた。
「コム?コーム?ってなるのかな?KHOM?KOHM?どう?」
「「「?」」」
僕以外の全員が何それ?というような怪訝な表情をする。
僕は皆の反応を見て説明を始める。
「いや、意味があるかどうかは知らないけど……ただ、皆の苗字の頭文字を並べてみて読めるかもしれない感じにしてみただけ……やっぱり駄目?」
皆は納得した後、しばらく考え――
「良いんじゃないそれで。あたしは賛成だよ、他に考えるの面倒だし」
なんか、投げっぱなしな意見でどうかと思ったが 岡村さんの言葉に釣られたように――
「うん、私も賛成。意味があるか調べて変な意味じゃなければだけど」
「俺もそれでいいや、あんまり凝り過ぎてない方が良いし」
言い出した本人が何も意見を出してこない事に若干の苛立ちを感じながらも、とりあえず決定ということになりそうだ。
意味は不明だが……。
◇ ◇ ◇
寮に帰った僕は、いつものようにベースを練習しながら池上と今日のバンドの話をしていた。
「へぇ、バンド名決まったんだ。意外と早いな」
「調べてみたらタイ語?らしいけど、変な意味じゃなさそうだからそれでいこうかなっていう感じだけど」
「タイ語ってマニアックだな。まぁ、バンド名なんて適当で良いんじゃね?」
「その意見に僕も賛成」
「そうかぁ、バンドとして動き始めたか」
回転式の椅子に座りゆっくりと回りながら池上は言う。
「まだ始まったばかりだけどね」
池上は僕の前に向いたところでピタリと止まり――
「いきなりだけどさ。来月一緒にライブやらね?空き枠が一つ出来たから」
「はっ?」
急な申し出に僕は驚いた。
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