第7話


 「いやぁ、意外だったよ。まさかホッシーが女の子紹介してくれるなんて」


 そう言っている彼は、僕の小学校からの友人で木田きだ たかし

 高校は別の学校なのだが、いまだに連絡を取り合っている数少ない友人だ。

 簡単に木田を紹介するならば、チャラい。

 まぁチャラい――が、頭はいい。


 だからこそ、チャラいくせに県内一の進学校だが男子校に通っている。

 彼の方向性?を考えれば、ランクを落としてでも共学の学校に進学するのかと思っていたが「ステータスはモテる要素になるじゃん?だから妥協はしたくない」という理由で男子校を選んだようだ。

 今となっては後悔しているとも言ってはいたが……。

 そんな木田だが、小学校の頃はおとなしくて真面目な奴だった。

 中学の中頃だったか?段々と今の感じになっていった。

 思春期にはありがちで、健全な変化ではあると思うが『人って結構変われるもんだな』と、思ってしまう。

 まぁどうあれ、基本的には良い奴だ。


 「女の子紹介するわけじゃないん……いや、まぁ、そうなんだけど、バンドをすることが目的だからね?」

 「わかってるって、頭良くて、更にバンドやってるとかなら結構モテそうじゃん?」


 僕がギター弾けるヤツといって思いついたのが、木田だった。

 とは言っても、どのくらい弾けるかは知らない。

 中学時代には興味が無かったので……。

 ギターを持っていて、少し練習していたような話を聞いた事があったかな?程度の曖昧な記憶で木田に頼んでみた。

 メンバーに女子が二人いる事を伝えたら、二つ返事でOKしてくれたのは、予想通りの反応だった。


 そして今日はバンドメンバーの初顔合わせ

 今は待ち合わせのファミレスに向かっている。


 「木田ってどのくらいギター弾けるの?」

 「どのくらいっていうのを、どう説明していいのか分からないけど、初歩的な事はある程度出来るのかな?バンドとかやったことないけどね」

 「うん、よく考えたら僕も訊いてみてもよく分からない事がよく分かったよ」


 聞いた所で実力の程が分からないのは当然だった、何しろ僕も初心者だ。


 岡村さんは部活でドラムを叩く事もあるので、当然、初心者ではない。

 宮田も何やらバンドとかやってたみたいだし、ある程度経験があるという事を考えると、初心者仲間が欲しい僕としてはあまり上手くない方が都合が良いとも思っていた。



  ◇  ◇  ◇



 そんな会話をしているうちに待ち合わせのファミレスに到着した。


 中に入ると「いらっしゃいませ」と、店員が声を掛けてくる。

 先に二人が到着している事を伝えられていた僕は、その旨を簡潔に説明して二人を探してみると、あっさり見つかった。


 窓際に座っている二人を木田に分かるように指差す。

 すると、木田は驚いた様子で二人の席に向かって行き――


 「あれ?姐御?」


 木田は岡村さんに話しかけた。

 岡村さんも驚いた様子で、木田を見る。


 「なんで、あんたがいんの?」

 「えっ?岡村さんと木田って知り合い?」


 僕は二人の様子を見て尋ねる。


 「うん、まぁ同じバイト先ってだけ」

 「なんだよ~。冷たいなぁ。俺と姉御の仲じゃん」

 「誤解を招くような言い方すんな。本当にそれだけでしょ。保科君、もしかしてギターを弾くのってコイツ?」

 「うん、そうだけど」

 「なんかちょっとバンド組むの嫌になってきたかも」


  俯いて頭を抱える岡村さん。


 「えっ?ちょっと待ってよ、なんだったらすぐクビするから」

 「おいちょっと、二人とも酷くないかい?俺に対して」


 その会話を聞いていて宮田はクスクスと笑う。


 「まぁ、バンドをやるのが嫌になったって言うのは嘘だけど、こんなのがメンバーで良いの?」


 岡村さんは僕に質問してくる。


 「二人がオーケーなら、こいつで行こうとおもうんだけど……」

 「私は別にいいよ」


 宮田が言うと、岡村さんも渋々――


 「はぁ……二人がそう言うならあたしも別に良いけどさ」


 了承してくれた。

 渋々と付けた方が正解だろう。


 「ていうか姉御って呼び方は何?」


 僕は木田に小声で尋ねた。


 「あぁ、バイト先でのあだ名だよ。本人は気に入って無いみたいだけどな」


 木田も小声で答える。


 「でも、何と言うか……ピッタリかも」


 僕は岡村さんに聞こえないように先ほどよりも小声で言った。


 僕と木田も席に座る。


 「それじゃぁ、改めて紹介するよ。コイツがギターをやってくれる木田 尊。で、ご存知の通り岡村さんがドラムで、その隣が俺と同じクラスでヴォーカルをやってくれる宮田 都さん」


 僕は、各々を簡単に紹介した。

 宮田が「よろしく」と挨拶しかけたところで――


 「宮田さん。名前も都だから、ミヤちゃんで良いよね?こんなカワイイ子紹介してくれるなんてホッシーにはマジ感謝だわ」


 木田は身を乗り出して宮田に近付き、嬉々として言う。


 「あっ、ありがとうございます」


 木田の勢いに圧される宮田だったが、岡村さんが口を挟む。


 「やるのはバンドだよ!で、保科君どんな曲やるかはある程度決めてきたの?」

 「一応、池上に勧められて女の子ヴォーカルで僕等が出来そうな曲をリストアップしてきたんだけど」


 僕は持ってきた紙をテーブルに出して皆に見せる。


 「あっ俺この曲分かる」

 「私もこの曲なら歌えるよ」

 「あたしもこの曲とこの曲なら知ってる」


 そんな感じで各々の意見を出し合った上で演奏する曲を決め、初練習の日取りを決めた。



  ◇  ◇  ◇



 寮に帰りベースの練習していると、池上がアルバイトから帰ってくる。

 話に出てはいなかったが、池上は先日僕らが入ったスタジオで受付のアルバイトをしている。


 「おっ練習してるな」

 「おかえり。一応、バンドは出来たよ」


 そこから僕は今日あったことを、池上に説明した。



 「ふ~ん、保科の友達が岡村の知り合いねぇ。世の中狭いな」

 「僕もそう思ったよ。でも、おかげでバンドはやりやすくなったけど」

 「しかしなぁ、男女混合バンドかぁ。色々難しい問題も出てくる気がするけどな……」

 「なんとなく分かるけど……とりあえず、どういう事?」

 「ん?そりゃぁ……何となくわかるだろ?」


 池上は意地悪く笑っていたが、まぁ、今の面子でそんな心配は無用だろうと深く考えはしなかった。

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