第4話
ベースを買ってから一週間。
結局、初心者用の教則本を買ってきて、それを読んでも分からないところは池上君に聞くというような感じで、一応は毎日練習している。
一年の冬休みにバイトをして残しておいた貯金がほぼ無くなり、何も出来なくなったというのもあるし、もとより他にやることが無かったというのが続いている要因かもしれない。
一週間程度で続いているとは言えないのかもしれないが……。
今日も早く帰って練習しようかなぁ、と考えながら学校の帰り支度をしていると――
「どう?ベースの練習してる?」
背後から宮田が話しかけてくる。
僕は気怠そうに、ゆっくり振り返る。
「うん、毎日練習してるよ。池上君の教えもあって二曲ぐらい弾けるようになった」
「えっ?凄いね。まだ一週間でしょ?」
「池上君に簡単な曲選んで貰ってるから」
「どんなのやってるの?」
「パンク系かな?今の僕が出来るのはそのくらい」
「へぇ、似合わない」
からかい半分でニヤける様子の宮田を無視し、僕は話を続けた。
「一回くらいはバンド形式でやってみたいけど、ドラムとか知り合いいないしなぁ」
僕が思いつきでそう言うと、宮田は少し考える素振りをする。
「……ドラムなら心当たりがあるよ。聞いてみよっか?」
「えっ?ああ、うん」
予想していなかった返答に僕は戸惑い頷いた。
「じゃあ、聞いてみるね」
「僕の知ってる人?」
「知らないと思うな。私の中学からの友達だし。ウチの学校で吹奏楽部のドラムやってるの」
「吹奏楽?全然違うじゃん」
「大丈夫だと思う、元々バンドとかやりたがってたから」
「ふぅん、えっと、じゃぁ、ギターは池上君に頼めば良いかな?」
「うん、それで良いと思うよ。池上君と同じクラスの子だし」
宮田はまた連絡するね、と言って帰っていった。
なんだか急に話が進んでいって、自分が付いていけていない気もしたが、やってみたいので良しとした。
◇ ◇ ◇
寮に帰り、池上君にギターを弾いてくれないか頼んでみたところあっさり了承して貰えたので、後は宮田からの連絡待ちだ。
僕がベースの練習をしていると、スマホが鳴る。
宮田からだ。
「もしもし」
『あっ、保科。今日言ってたドラムの子の話だけど、取り敢えずやってもいいって。だから、演奏する曲を教えて欲しいんだけど』
「それなら、明日にでも音源持って行くよ」
『うん。分かった。じゃあ、また明日』
「また明日」
僕は電話を切る。
ドラムが誰なのか聞くのを忘れてしまったのに気が付いたが、明日になれば分かるのならそれでいいと思った。
「ドラムの人やってくれるって」
「で、誰なのドラムの奴?」
「ごめん、聞き忘れちゃった。でも、池上君と同じクラスの吹奏楽部の人だって話だよ」
「ああ、それなら間違いなく
「そうなの?どんな人?」
「う~ん、ちょっと大人びた感じの気の強そうな娘?」
「何か恐そうなイメージの人だね……」
「いや、そんな事はないよ。いい奴だよ。多分、うん……」
「へぇ」
「で、話変わるけど、保科と宮田って付き合ってるの?」
「はっ?何?なんで急にそんな話になるの?」
僕は驚いて声が裏返る。
「いや、この間のライブも一緒に来てたし」
「あれは、たまたま池上君と知り合いだって聞いたから誘ったんだよ」
「へぇ~……怪しいな」
「いや、本当に友達なだけだから」
「でも、あれはあれで宮田もなかなか可愛いじゃん?」
「そうなのかなぁ?よく分からないけど」
正直、僕も宮田が可愛い部類に入るのだとは思うが、意識して見ていないだけになかなか思考がシフト出来ない。
だからこそ、とぼけてみた。
「まぁ、いいや。そういう事にしといてやるよ」
「いや、なんで含みのある言い方になるの?」
池上君はニヤニヤしていたが、その後何か思い出したように――
「あっ、そうそう、もうそろそろ池上君じゃなくて、池上って呼び捨てでいいんじゃね?何か距離を感じるから」
言われて気が付いた、確かにこれだけ話の出来るようになった、同級生に『君』付けすると距離を感じるかもしれない。僕はあまり気にしていなかったが……。
「ん?あぁ、そう感じる?最初の呼び方で馴染んじゃったからあんまり意識してなかったんだけど気を付けるよ」
呼び方を急に変えるというのは容易では無いと感じながらも、とりあえず従うとしよう。
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