第3話


 僕は今、リサイクルショップに来ている。

 日曜の午前中から動くのは、春休み明けという事を差し置いても慣れていないので、少し損した気分になっていた。


 そんな気分になりながらもこんな時間に動いている理由は、昨日のライブが終わって寮に帰ってきた池上君に、僕も楽器をやってみたいと伝えたからだ。

 彼は僕以上に乗り気で「明日買いに行こう」と言い出したのだ。


 でも、なんでリサイクルショップ?楽器を買うなら楽器屋じゃないの?という疑問は残っている。


 「どうして、楽器買うのにリサイクルショップなの?」


 僕は池上君に率直な疑問を投げかけてみる。


 「あぁ?だって予算二万くらいだろ?それだと、楽器屋で新品買うとなると大したモン買えないからな。どうせ同じ金額出すなら、こういうところで掘り出しモン探した方が当たりがあるんだよ」

 「へぇ、そういうもんなんだ」

 「で、ベースだっけ。欲しいのは」

 「うん」

 「ギターにすれば良いのに」

 「まぁ、それは……ねぇ」


 正直、池上君と同じ楽器を今から練習するのが嫌だったという小さな対抗心と、ドラムは寮で練習出来ないという事での消去法だった。

 小さい頃に少しだけピアノを習わされていたので、キーボードなら多少は出来たのかもしれないが、誠に申し訳ない事にキーボードは、僕の偏見によるバンドイメージから離れていたので除外させてもらった。


 そんな事を考えている僕を無視し、池上君は楽器を眺めている。


 「このあたりが渋くて良いんじゃね?」


 池上君は数あるベースの一本を指差す。僕はそれを見て――


 「おお、かっこいいね」


 対象のベースを手に取ってみると、思っていたよりも重い。

 見た目は軽そうなのに。


 僕はそのベースを静かに元の場所に戻した。


 「もっと、軽いヤツがいいな」


 僕がそう言うと、池上君はもう一度商品を見渡す。


 「ふーん、おっ、じゃあ、これは?」


 次に薦められたベースは、さっきのものと比べてだいぶコンパクトな印象だ。再び手に取ってみる。


 「あっ、これくらいの重さのほうがいいね。肩も凝らなそう」

 「年寄りじゃないんだから楽器選ぶのにそんな理由出すなよ」


 池上君は笑っているが、僕としては真剣な問題だ。


 そんなこんなで結局そのベースと、音を出すのに必要なケーブル(シールドと言うらしい)を買った。



  ◇  ◇  ◇



 寮に戻った僕達は、早速ベースを付属のケースから出してみる。

 池上君は自分のギターケースから四角い機械を取り出し僕に見せる。


 「これはチューナー。音程を合わせる道具」

 「どうやるの?」

 「ちょっとベース貸して」


 僕は池上君にベースを渡す。

 池上君はベースを受け取ると、チューナーとベースをシールドで繋ぎ、馴れた手つきで音程を合わせ始めた。

 その際に色々説明をしてくれたのだが、一度では覚えきれない。

 また後で聞こう。


 「はい、これでとりあえず弾けるようにはなった」


 池上君は僕にベースを僕に返す。


 「アンプとか無いけど良いの?」

 「在るに越したことは無いけど、ここで練習する分には必要ないな」

 「まぁ確かに、音聞こえるしね」


 僕は胡坐をかいて、ベースを構えてみる。

 何か高価な物(一般高校生基準だけど)を買って、初めて使用する時の高揚感はたまらない。

 そんな気分に浸ってニヤついていたのだが、その数秒後に気が付いた。


 「まず、何をすればいいの?」

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