第7話 最後の覚醒者

 最後に魔法陣の中に入ったのは香奈だった。

 片膝を降り、祈りを始める。背筋を伸ばし、わずかに俯く姿や、立膝の仕方が美しく今までに見た女子たちの中で一番、祈る姿が様になっていた。

 その姿を見て俺は、ひょっとして実家が金持ちのお嬢様なのか? と勘繰ってしまう。そういえば香奈は普段から仕草や歩き方にどこか気品があったな。


 俺がそんなことを考えていると、香奈の周りに黄色のオーラが発現した。無事儀式は終了したようだ。香奈は前の三人の動きをよく見ていたようで、すぐに国王の元に歩いて行き、箱型の遺物に手を乗せた。


 すると出てきた紙は俺と同じで一枚だけだった。

 

「どれどれ、おお! やったな! Aランクのスキルだぞ!! ほれ!」

 国王が香奈に手渡してきた紙を俺は急いで横から覗き込む。そこにはこう書かれていた。


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 魔法名 【透明化】  ランクA級

 身体を透明にすることができる。一回に使用できる時間は最大三分間。次の使用までは一分間のら時間が必要。一体までの生物であれば手を繋いでいる間、一緒に能力を使える。

 身体が透明になるだけで、匂いや音などは消えない。透明になっている間もダメージは受ける


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「いいなぁ」

 紙に書いてある内容を読んだ瞬間、つい心の声が漏れてしまった。俺に向かって周りの女子たちが侮蔑の視線を送ってくるのを感じたが、口にでるのもしかたがない。


(透明化なんて一番欲しい能力じゃないか。なんでこれがA級なんだ? 絶対SS級だろ!!

 これがあれば俺は新世界の神になれるのに。

 神様、俺の力と交換してくれよ!)


 俺は心の中で必死に祈りを捧げたが、体にはなんの変化はなかった。心の中で神様に恨みの言葉を呟いていると突然、香奈が姿を消した。


「わっ!」

 突然の出来事に千歳が声を上げた。

「すごいな! 本当に消えた。何も見えない……」

 俺もこれには感嘆の声を上げてしまう。


 しばらくして、香奈はスッと姿を現した。

「おおー!」

「香奈ちゃんすごーい!」

 ひびきと千歳が驚いている横で俺は冷静に分析を始めた。


 (すごいなこれ。姿を消して静かに近づき、剣や槍で突き刺したら一発じゃないか!! 流石にA級の魔法は違うな……。しかしそれにしても……)

 俺の頭には一つの感情がどうしても浮かんできてしまう。

(ずるいぞ神様! 俺はこっちの方が良かった!! 召喚スキルとか、属性系スキルとかどうでもいいから、今からでも変えてくれ!!)


 俺は周りのみんなが何やら話している中、もう一度魔法陣の中に入って祈りを捧げる。

 しかし、どんなに必死に祈っても体に変化は起こらなかった!

 そんな俺に対して、ひびきが近づいてきて言った。

「お前、何してるんだ?」

「なんだっていいだろ?」

「どうせ自分も透明化魔法が欲しいとか考えて祈ってるんだろ! きもっ」

「なっ!」

 考えてることを寸分狂わず言い当てられて、俺は驚いてしまう。

「なんでわかるんだ? ひょっとして心を読む能力も得たのか?」

「お前が考えそうなことぐらい簡単にわかるんだよ。頼むから冒険してる間、私に近づかないでくれよ」

 ひびきは冷たい視線をこちらに送ると、千歳たちの元に戻って行った。


 俺は後三十秒だけ粘ってみようと本気で祈ったが結局だめだった。

 仕方がなく、みんなの元へ戻った。




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人選ミスで異世界に召喚された和菓子部の俺だが、珍スキルを使ってとりあえずできることをやってみる。 彼方 @neroma

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