フィルムを回して

@homa415

アタシだけの


美味しいカフェを右。

花壇があるお家を左。

少し開けた道路に着いたら青いベンチをまた左。

そこにあるのはアタシの通う映画館。


フィルムが回り映画が始まる

1番後ろの左から5つ目の席。

そこがアタシの居場所。

映画の中のヒロインは

いつも誰かに恋してる。

ドライブや素敵なディナー。

最後はプロポーズでおしまい。

そんなありがちな物語。

毎日見るこの物語。

もう、台詞も言えるようになった。


いつもの席からよく見える場所。

いつも真剣な眼差しで映画を見るアナタが美しく見えた。

映画では教えられなかった、

恋に落ちた時の衝撃が

アタシの一生のタカラモノ。

映画の中に出てくる、『アイシテル』を

アナタに言えればなと。

名前も知らないアナタに伝えるのはあまりにもおかしいことかしら。


今日も映画が始まる。

カラン。カラン。と鈴の音が。

アタシだけのアナタが来た合図。

いつもの席でいつもの映画を見る

アナタの顔が愛おしい。


アタシね。

次の映画になる前に故郷を出るの。


アナタに恋をしていたと言えたのならアタシはもうちょっと後悔が少ない人生だったかもしれない。



杖をつかないとまともに歩けないくらいアタシは歳をとった。

結局アナタには思いを伝えられないまま孫ができたわ。


新しいビルを右。

広い駐車場を左。

開けた道路にでたら人気のカフェをまた左。そこにあるのは

アタシの思い出の映画館。


プロジェクターが起動する。

1番後ろの左から5番目の席。

もう、そこから見えたアナタはいない

映画の中のヒロインは

自分を貫き戦っている。


いつも誰かが悪役で

いつも何かと戦っている。

もう、ありがちになった映画。


あの時の私の居場所は

此処ではない気がした。


エンドロールを見ずに帰る人がちらほら。アナタを長く見るためにアタシは残って見ていたわ。


エンドロールが終わった。

明かりがついたその空間は

新しいものの匂いがした。


席を立とうとした時カラン。カラン。と鈴の音がなった。アタシの知っている、アタシだけの合図。


振り向いた頃にはその音は消えていた


ねぇ。もしアタシがアナタに愛を伝えたらアナタはどんな顔をした?

アタシが知らないアナタは一体何をしていたの?


聞かせて。アナタの話。


もし、もう一度人生がやり直せるなら、もし、来世があるのならその時は

アタシは是非アナタに白馬の王子をしてほしいわ。



そして今度こそ言うわ。



私は後ろの小窓から見える

映写技師のアナタに恋をしていました。ってね。

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