第8話 僕の仕事③
ハンコットを殺すと、ククルを抑えていた護衛2人は彼女を解放した。
「あの、殺して良かったんですか?」
「あぁ、別にいいよ」
ククルは興味を失ったかのように服を叩きながら起き上がる。そばにいる護衛は呆然と立っているし、従者は見るからに動揺している。それもそうだろう、瞬く間に自分の主人が客人に殺されたのだから無理もない。
「こいつは偽物だ」
「へ?」
何とも間抜けな声を出してしまった。偽物?
どういうことだ。護衛と従者に視線を向けてみたが、僕以上に驚いているように見える。これは偽物だとは知らなかったパターンだろうな。
「こいつが殺させようとしてた奴ね、私の部下」
そういうと、ハンコットの遺体からモノクロの紙を奪い僕に見せてきた。先ほどククル達がみていたものだ。モノクロの写真のようだが、建物と建物間に人影が写っている。小さくて顔までは見えないが服装は何となくわかる。
「元々ね、ハンコットからは自分の周りを調査してほしいって依頼を受けてたのよ。それで向かわせた私の部下をこっちに処分させようなんて、本当にこいつはふざけた偽物ね」
「あの、この人偽物って証拠はあるんですか?」
一応念のために聞いておこう。今のところ、勘に触ったから殺した。とも取れる状況である。ククルはとても面倒くさそうな顔でこちらを見る。
「それは俺から話そうか?」
振り向くと同時に臨戦体制を取る。それは知らない男の声だった。
「いや待て、新入り君。俺は味方だよ」
格好は紙に写っていた革のジャケットとハット。外人モデルのような色男が立っている。
「バンキギ、あんたのミスだからね。今回の報酬は減額。いいね」
ククルはため息混じりに男に言った。この人がバンキギ、レンヤの手紙に名前のあった人物だ。ここ最近はずっと別の仕事で不在と聞いていたが、ここにいたのか。
「やっぱり、ダメ?」
「ダメだよ。依頼人攫われて偽物出てきてるのは流石にマイナスだよ」
「本人助けたけど?」
「それは最低ラインの話だろ?それも出来てなければ報酬全カットものだよ、全く」
バンキギはオーバーリアクションでその場に崩れ落ちる。
何なんだこの人は......。
「と、いうことで君たち。本物主人は無事だとさ、良かったね」
ククルはちょうど目を覚ました護衛達や従者にことの次第を説明している。やはり、ククルは僕に言ってないだけでこの状況を全て把握した上でここに来ていたのか。
僕の肩をトントンと叩く人がいる。振り向くとバンキギである。この人さっきから気配を消すのが上手すぎる。近づかれるのに気付けない。
「バンキギだ。よろしく、新入り君」
「ミキオです。こちらこそよろしくお願いします。あなたのことは皆さんから少し聞いてますよ」
「お!それはどんなだい?」
「いるとうるさいが、いなくても騒がしいタイプと」
「何だそれは」
「あと、レンヤから僕宛の手紙で、ぜひ話してみると良いって書いてありました」
「ほー、レンヤがねぇ。悪い気はしないな、それは」
バンキギは少し照れているみたいだ。確かに話しやすい雰囲気を醸し出している。それにしても間近でみると思っていた以上に身長が高い。高身長のアスリートタイプのイケメンだ。海外の雑誌のモデルとかやってそうな顔である。
「ミキオは腕がいいな。こそっと後ろから見てたけど、あの動きは良いね。真似できないが、安心して見てられる、そんな感じだ」
「はぁ、どうも。ここまで後ろをつけてきてたのはバンキギだったんですね」
「やっぱ、気づいてたか」
「一応」
「先にククルに現状の詳細を説明しようかと思ったんだけどな。道中でこっそりククルに現状を教えたけど、一向に合図がないし適当に後ろから追わせてもらった」
「なるほど」
今思えば、道中でククルが見ていたメモはバンキギからの現状の報告だったのだろう。
「いやー、参ったね。まさか偽物現れるとは思わなかったからさ。いや、待てよ」
バンキギはハンコットの偽物の死体の側へいく。
立っていてもすることがないので、僕もバンキギについて死体の側へいった。バンキギは何やら死体を探っているようだ。
「腕は良いと思ったが、俺の見立て以上だったわ」
「と言いますと?」
「これはミキオ以外だったら、こっちが危なかったかもね」
そういうと、バンキギは死体の服をめくった。死体の背中が露出する。そこには刺青と焼印で複雑な文字や紋様が描かれている。これは......
「呪い《まじない》ですか?」
「そそ、これは瀕死になると自爆する呪いさ」
「え?」
「中途半端に痛めつけてると勝手に発動するタイプの呪いだと思う。今回は呪いが動く前にミキオが一瞬でトドメを刺したから良いけど、俺や他の誰かだったら」
「ミキオ以外だったら今頃この部屋は無くなってるよ」
そう言ったのはククルだ。従者や護衛への説明は終わったらしい。
ちょっと楽しそうなので、多分報酬は上乗せが決まったのだろう。
「生物にも呪いってかけられるんですね」
「あ〜知らんかったか、まぁ珍しいですよねククル?」
「うん。違法だからね。だってこれだし」
ククルは死体の背中を指差す。刺繍と焼印のせいで背中は火傷や膿など酷く荒れている。ククルは偽物の顎あたり持ち、勢いよく顔の皮を剥がす。スパイ映画でよく見るような変装用のマスクを剥がすようだった。皮の下には背中同様に刺青と焼けとで爛れた皮膚があらわになる。
「これで変装してた訳だが、これでも簡単な呪いだからね、これ以上複雑な呪いを施そうとすれば普通は人の方が先にダメになるよ。そういう意味ではこの偽物は結構根性ある方だったんだろうね」
呪いにもいろいろなものがあるみたいだ。帰ったらリフキーシあたりに少し聞いてみるか。
「この呪いって死体なら効果ないんですよね」
「うん。ないよ。死体を爆発させるのはまた違う呪いさ。そっちの場合は背中程度じゃ済まないよ。ほぼ全身に何か施してあるはず」
「あー、俺は何回か戦場で見たことあるけど、あれは見ない方がいいぜ。3日は食欲失せたもん」
「バンキギ、せっかくだからこの偽物の身元が分かりそうな物ないか探しておいて、私はもう少しハンコットの従者と話してくる」
そういうとククルは従者と話を開始する。バンキギはやれやれと言いながら、偽物の身包みを剥ぎつつ、身元が分かりそうな物を探す。僕も暇なので、バンキギを手伝いながら雑談をした。数分くらいして、バンキギが偽物の服に縫い付けてあったペンダントを見つけた。
「ククルちょっと」
「お、何か見つけた?」
「これを」
バンキギはククルにペンダントを渡す。すると明かにククルの表情が変わった。
それは木の葉の形をした金色のペンダントで中央には緑の宝石が埋め込まれている。
「なるほどね」
「これで何度目ですかね?」
「そのペンダントに何かあるんですか?」
「何度も何度も私たちの仕事の邪魔をしてる連中がいるみたいでね。そいつらがこのペンダントを持っているのよ」
「どこかの組織なんですか?」
「それがわからないから困っているのよ」
「少なくとも、規模で言えば
「この件は、一旦持ち帰りね」
そういうとククルは一回だけ手を叩き、表情を戻す。
「さ、戻りますか」
僕らはハンコットの別邸を後にした。
その後、わかったことなのだが僕ら以外のメンバーは本物のハンコット氏とお茶をしていたらしい。ククルとバンキギと僕ら3人が他の仲間と落ち合ったのは、高級そうなレストランだった。まさしくVIP対応で案内された先に、本物のハンコット、アルゴーやメェリたちが優雅に食事を楽しんでいたのであった。
ラストドミネーター 世界樹の門と支配の怪物 カプサイズ @kapusize111
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