スキー教室の悲劇4

ついにぼっちひとりになってしまった私。


足が痛くてたまりません。カコカコと歩く度にスネを攻撃してくる靴。

もうやめて、私のライフはもうゼロよ。


多分靴を脱いで分厚い靴下を脱いでそこを見てもまだ青くはなっていないんですよね。だから「痛い」は信じてもらえないです。


なのでまた仕方なくスキー場に戻りました。


そして私は平地の隅っこでひとり雪だるまを作りました。夕方までこうしていればやがて終わる。明けない夜はない、そう自分に言い聞かせて雪を丸めていました。


その時です。


担任の先生がまた現れました。

嫌な予感がして咄嗟に逃げようとしましたが回り込まれました。


「1回だけ一緒に上から滑ろう? そしたら戻っていいから」


ニコリと柔和に笑いました。


実は先生は若くて爽やかで正直人気者です。(俳優さんみたいな感じ)

24歳くらいだったはずです。


突然のdrに戸惑いながらも1回だけでいいのなら、と立ち上がろうとした時です。



「俺も一緒に行く!」



そう言ってきたのは体育の先生でした。

こちらはスポーティーな印象で23歳。こちらもこちらでとても人気のある先生でした。(モデルさんみたいな感じ)



そして3人でリフトに向かうと「キャー」

という歓声が聞こえてきます。


「せんせ♡一緒に滑ろ♡」

「ごめーん、後でな」


だけど先生たちはその誘いを次々と断ります。



?!



むくり、私の中の感情が動いた瞬間でした。



これって、まさか。



優! 越! 感!!



たちまち気分が良くなった私はまるで自分がキャーを浴びているスーパーアイドルみたいな気分になってきました。



心の声(ふっ、ごめんね、このふたり、私と一緒にいたいみたい)



(≖͈́ㅂ≖͈̀ )ニチャー



これは気持ちがいい!



風を切るようにリフトに向かいました。



ですが乗ろうとした瞬間、さっきのトラウマが蘇りました。



「どうした?」



だけど今度はひとりではありません。体育の先生が先に行き、私の隣には担任の先生が一緒に乗ってくれました。


降りる時もスムーズにアシストしてくれたので人間ミルフィーユは回避できました。


てかこんなに簡単に降りられるんだ、と感心しました。


そして頂上に着くと思ったより斜面が急で怖くなった私に、今思い返してもなんで突然その人気の先生ふたりが私をその日だけ特別扱いしてくれたかは分かりませんが、体育の先生が後ろ向きで私の前を滑り、私がよろけそうになったらすぐ助けられる姿勢、そして後ろからは担任の先生が私が転んでも大丈夫なように後ろから滑ってくれました。


そうしてゆっくりゆっくりと滑り下まで到達した時には「お疲れ、戻っていいよ」

と爽やかな笑顔を残しふたりは去っていきました。



青春時代――。



17歳を人はそう呼ぶ。



アオハル――。



そうとも言う。



なかった、こんな漫画みたいなことは今まで一度たりともなかったです。



だけど魔法がかかっていたのはその一瞬限り。


お姫様だった私は宿泊施設に戻るころには薄汚いチンパn一味として元通りになっていました。



「ごめん! わの」



部屋に戻るとみんながかけよってくれました。


「うちらだけ先に帰っちゃってごめんね」


みなそう言い駆け寄ってくれたものの、私は見逃さない。


テーブルの上に開けられたお菓子から宴会をやっていたのは明らかだ。



「どうだった? あれから何してたの?」



その言葉に私はさっきあったできごとを逐一話しました。



その瞬間である!



「は? あのふたりと滑ったの?」

「え、マジ?」

「無理ありえないんだけど」

「ずるすぎる」



散々な言われようで私のいちにちの苦労はなかった事にされ、「大変な思いをした女」から一瞬にして「いい思いをした女」に格下げしたこと、その場はすぐに解散になり、私の周りからは人がいなくなりお菓子の残りに戻っていったこと、私の分のお菓子はほとんど残っていなかったこと、スネのHPがついに0になって数日使い物にならなくなったこと、私は一生忘れない。




あのころ私たちはいつだって3人一緒だった。

                終わり

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あのころ私たちはいつだって3人一緒だった。 海月わの @wanovlog

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