異世界転生させトラックおじさん

真心 糸

転生させちゃうよ

僕は天道勇気、ただの高校生一年生だ


近所の高校に通い始めた春、たまたま通りがかった体育館の裏で同級生が不良にカツアゲされていた


いじめだ、許せない


だから口を出した、立ちはだかったんだ、不良たちの前に


そしたらボコボコにされた


そいつらは言った


「明日からはおまえをいじめてやる

毎日金持ってこいよ」


、、、いいんだ、僕は正しいことをした

後悔なんてしてない


今、僕はボコボコにされた身体を引きずって、傘もささずに街頭を歩いている


ずいぶん遅くなった、早く帰らないと両親が心配する

早く帰らないと


そう思うが、足は重い

骨折はしていないと思う

でも、右足は力を入れると激痛が走った

だから、ゆっくりとしか歩けない


はぁ、、でも、良かったな

あの子は逃げれたみたいだし


僕が庇った同級生はいつの間にか姿を消していた

逃げれたんだろう

うん、よかった


ふと、雨の中、道路脇の植栽が気になった

子猫がいたからだ


まだ小さいのに、、捨てられたのだろうか、、


「かわいそうに、、」

僕は独り言をつぶやきながら、その黒猫に足を引きずりながら近づく


その子は僕には気づかない様子で、突然、道路に飛び出した


「あ!危ないよ!」


咄嗟に声をかけるが止まらない


しかし、あろうことかその子猫は道路の真ん中で止まってしまう

片側二車線の大通りだ


「危ないから戻っておいで!」


重い足を引きずって道路脇まで歩いていく


ゴォォォ


すると、少し離れたところから、大きな車の

トラックの走行音が聞こえてきた


猛スピードでこちらにやってくる


「なっ!?」


このままだとあの子猫が!!


僕は咄嗟に飛び出した

今ならまだ間に合うはずだ


両手を伸ばして、子猫を抱き抱えようとする


でも、僕の視界はライトの明かりで真っ白に染まり

気づけば、僕は宙に浮いていた


ドンッ!!


遅れて、大きな音が聞こえてくる


なんの音だろう?


僕の視界は空から地面にたたきつけられて、ゴロゴロと地面を転がる


なんだろうこれは?


なんだかあったかい


それに、視界はどんどん真っ白になっていく


僕、轢かれた?

死ぬのかな、、


僕が最期に思い浮かべたのは、そんなありきたりなセリフだった



ガチャ


雨空の下、先ほど高校生を轢いたトラックの運転手が外に出てきた

無言で倒れた高校生を眺めている


「、、、」


ピピ

トゥルルル


「あ、もしもしゼウス様?

あーうん、今1人送ったから

うん、天道勇気くん

正義感が強くてイケメンだし、運動神経もいいみたいよ

なにより!

いじめっ子から見ず知らずの同級生を助けて!ボコボコにされても後悔してないのがいいよね!

勇者にしてあげてよ!チートスキルとかあげてさ!

うん!うん!

そうそう!名前も勇気だしね!勇者っぽいよね!

うん!それじゃ〜、またね

うん、こちらこそいつもありがと〜」


ピッ


オレが電話を切るころには、天道くんのまわりに魔法陣の展開が終わり、

今まさに異世界に転生されるところだった


彼の真っ赤な血と一緒に、全ての痕跡を吸い込んで、光の柱となって消えていった


「ふぅ、今日もいい仕事したな」


オレは、正面 衝斗、38歳、しがないトラック運転手だ


副業で異世界転生屋をやっている


見込みのあるやつを見つけて、異世界に転生させてるのだ

今日も天道勇気くんというイケメンを剣と魔法の世界に転生させてあげた


何を勝手なことを?

本人の同意も取らずに?


いやいや、オレは神様にもらった未来スコープ機能がついたスマホを使って、

他人のこれからの未来を見れるんだ


明日から天道勇気くんはいじめっ子に猛烈にいじめられて、半年後に自殺する


そんな勿体無いことするくらいなら異世界に転生した方がいいだろう?


え?家族がかわいそう?

いやいや、自殺する方がかわいそうやん


それにさ、異世界転生させると家族の記憶とかはいい感じに改ざんされるらしいし、悲しむ人はいないよ?

ならオールオッケーじゃね?


「ひと仕事終えたし!ビールでも飲むかー!」


ガチャリ


オレは、トラックの扉を開けて、帰りにコンビニでビールを買うことに決める


今日はビールパーティだぜ!


♢♦♢


翌朝、土曜日


トゥルルル


「ん〜?頭いてぇ、、」


オレはスマホの着信音で目を覚ます


昨日キメたビールの後遺症で頭がズキズキと痛かった


「くそ〜、天道くんのこれからの人生に祝杯をあげていたら飲み過ぎてしまったぜ、、」


言いながらスマホを手に取る


「んあ?アテナ様?珍しいな」


スマホには、アテナ様、と表示されていた

例の未来スコープ機能があるスマホだ


このスマホには、オレに異世界転生を依頼してくる神様たちの連絡先が入っている


今電話をかけてきているアテナ様は、今年になってから一度も依頼をしてきてない

彼女からの連絡は珍しいことだ


ピッ


とりあえず電話に出てみる


「はいはい、おはようございます

お久しぶりです

はい?

至急、頭脳明晰で正義感が強くて、家族はいない独り身の高校生を送ってほしい?

いやいや、突然そんなこと言われても無理ですって、、

ちなみにいつまでっすか?

明日!?

いやいや!絶対無理!!

そんなすぐ見つけれませんよ!

え?

おまえ転生させたいリスト持ってるだろ?

その中のストックから1人寄越せ?

、、いや〜、確かに、まぁ、そんなリストはありますけど、、

ちょっと待ってくださいよ」


オレは電話をスピーカーに切り替えつつ、メモ帳を開く


オレが転生させようかどうか悩んでいる勇者候補のリストだ


「うーん、、

まぁ、それっぽい人はいますけど、高校生じゃないっすよ?

え?転生させるタイミングで若返らせるからそいつでいい?

あ〜、なるほど、そうすか

じゃあ、彼かな

甘草士郎くん、29歳、プログラマー

昨年まで大手メーカーのプログラマーだったが、先輩に誘われてベンチャー企業に転職

彼の天才的なシステム開発能力のおかけで会社は上手くいっている

でも、彼のワンマンパワーで保ってる会社だから毎日深夜まで働いて、

心も身体もボロボロ、そろそろ限界だったんすよね~

え?

頭脳はよさそうだけど、正義感は強いのか?

ええ!それはもちろん!

彼はそんなボロボロの身体、精神状態にもかかわらず!

近所のおばあさんの荷物持ちを毎日のようにしているんです!

それに!おんぶ付きですよ!

そんな彼を見て商店街の人たちはみんな彼を応援しています!

下町の商店街のヒーローです!

他人に好かれる人柄もあって!勇者としては申し分なくないっすか!?

え?そいつでいい?

明日の0時までに転生させろ?

あぁ、はい、わかりましたよ

ん〜、でも急なんでボーナスくださいよ

え?なにがいいかって?

そりゃ!もちろんいつもの女神ポイントくださいよ!

それ使ってオレが転生させた勇者たちの様子を眺めるのが楽しいんですから!

えぇえぇ!

おぉ!1ヶ月分見放題!?

いいっすね!やりますやります!

はい!では明日の0時までに!

転生させたら電話します!

うっす!!」


ピッ


オレはアテナ様からの電話を切る


「よし、明日の転生に向けて下見しておくか〜」


オレは外に出る身支度をして、車のキーを持って外に出た


甘草士郎くんをどこで轢き殺すか下見をするためだ


「よーし!明日もいい仕事するぞー!」


オレはテンション高めで自慢のトラックの元へと向かっていった


♢♦♢


日曜日


オレは下見を終えて、甘草くんの通勤路で彼を待ち構えていた


時刻は朝、まだ明るい時間だった


トラックの中から外を眺め、彼が来るのを待つ


「彼は今日も人助けしてるかなぁー?

お!来た!おお!!さすが!」


甘草くんは、今日も今日とておばあさんの荷物を持って、おばあさんをおんぶしながら歩道橋を渡っていた


歩道橋を降り終わったら、おばあさんがぺこぺこと頭を下げ、みかんを渡していた


それを嬉しそうに受け取る甘草くん

そんな彼の目の下は真っ暗だ

あまり寝れていないのだろう、かわいそうに

それに今日は日曜日なのにスーツを着て出勤とは、、


「ブラック企業に勤めると大変だよなぁ」


うん、今晩、楽にしてあげるからね♡

甘草くん♪



夜23時


オレは甘草くんが出てくるのをビルの前で待ち構えていた


トラックのエンジンはすでにかけている


「そろそろ準備するかー」


オレはスマホを操作する


ポチポチ


雨雲呼び寄せ、5分後

10分後、どしゃ降り


「おっけ」


オレはポセイドン様にインストールしてもらった雨降らせアプリ

[水神の怒り]を操作して雨雲をスタンバラせた


やっぱり、転生するときは雨に限るよね

視界も悪くなるし、トラックがスリップしやすくなるし、事故とか起きそうだしね

お約束♪


5分後、ゴロゴロと雨雲が音を鳴らし出し、

10分後にはザアザアと大粒の雨が降り出した


そろそろ甘草くん出てくるかなぁ

終電ギリギリになるかなぁ、真面目だなぁ


23時53分


彼がビルから姿を現した


空を見てから、困ったような顔をして、カバンをあさる

もちろん傘はない

頭をカバンでガードして駅に向かって走り出した


危ないよぉ〜、そんな装備じゃ視界も悪いよぉ?


オレはニヤニヤしながら、アクセルを踏んだ


出発だ


彼はこのまま走っていくと、5分後には駅前の大通りに出るはずだ


そこを轢く


オレは徐々にスピードを上げていく


ぽち

そして、トラックのハンドルに付いている

転生ボタンを押した


ピロン

-------------------

転生スタンバイ

-------------------

ナビにそう表示される


「ヒャッハー!!転生まであと数秒だー!!

甘草くん!キミにはこれから幸せな人生が待ってるんだ!!

楽しんでくれたまえー!!」


時速120キロ


そのままカーブを曲がる


ギュルルル


トラックのタイヤがスリップしながら、ドリフトのように車体を曲げた


正面にはサラリーマンの男


スーツ姿で、カバンを頭にのせ雨をしのいでいる


彼は呆然とこちらを見ていた


目の下は真っ暗だ


かわいそうに


「異世界では!みんながキミのことを助けてくれるし!

英雄にだってなれる!

がんばるんだよ!

いや!がんばらなくてもキミは最高の人間だ!!

いってらっしゃい!!」


バァーーン!!!


甘草くんが宙を舞っていた


クルクルと回っている


いつもより多く回っております


トリプルアクセル!ふぅー!!


グシャ


なんだか車の斜め後ろで鈍い音がした


「おけおけ」


オレは数メートル離れたところでトラックを降り、

アテナ様に電話をかける


甘草くんは血だまりの海を泳いでいた


そして、転生の魔法陣が描かれていく


「あ、アテナ様?

今から甘草くんそっち行くので

はい、はい、お願いします

はい!彼は今日も徹夜明けみたいな顔色でおばあさんを助けてました!

最高の人格者です!

きっと立派な勇者になりますよ!

え?勇者じゃなくて賢者にする?

ええ!?

そんな!勇者がいいっす!

もう決めたことだからごめんね?

なんすかそれ!いやだいやだ!甘草くんは勇者になるの!

え?

賢者だけど最強の魔法使いにして、勇者よりも先に魔王を倒させる?

ふむふむ、それなら実質勇者と変わりませんね

はい、はい、それなら妥協しましょう

でもですね?

そういうことは先に言っといてもらわないと

えぇえぇ、お願いしますよ、ほんとに

それじゃまた」


ピッ


オレは電話を切って、正面をみる


甘草くんは光の柱になって旅立っていった


うん、キミはこれから幸せになるんだ


最強の賢者として


楽しみにしてるよ、うん、そして楽しんでくれ、新しい人生を


「アディオス」


オレは二本指を立てながらカッコつけてトラックに乗り込んだ


いやぁ、今日もいい仕事したぜ


ビールパーティだな!!


♢♦♢


20XX年


異世界転生屋


副業でその職業に就くトラック運転手の男がいた


その男が転生させた者は、

誰1人として転生を後悔せず、

異世界で幸せに生き抜いたという


そんなことは稀だ


他の転生屋ではそうはいかない


彼が転生させた人物が人格者ぞろいなのは、

彼が入念な下見調査をしているからだと噂されていた


その男の名前は正面 衝斗


彼がこれまで転生させた者はゆうに100名を超える


現代日本の東京から転生した成功者は、ほとんどが彼の担当だったという


そんな男は、今日もビール片手に転生者の勇者人生を覗き見しながら、ニヤニヤと晩酌を楽しんでいる


彼は神たちから、こう呼ばれていた


異世界転生させトラックおじさん


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異世界転生させトラックおじさん 真心 糸 @magocoro_ito

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