昔の翻訳小説の文体を目指して書かれたという本作は、確かに海外SFのような文体の質感を感じました。初めて父親の本棚を開けたとき好きなブルーの背表紙の本を手に取り、ゆっくりと読んで、なにか居心地の悪い感覚とも言えるセンス・オブ・ワンダーとともに、そこに書かれた異国の風景の遠さや分かりあえなさを感じた、あの感触が蘇ってくるようでした。そうした意味で翻訳小説が原文のアウラ〈Aura〉をそのままに表現するかのように何かそこに権威すら感じられます。内容に触れれば人工知能と、それになってしまった人間の孤独という普遍的なテーマを取り扱っており、その孤独はこの時代にこうした昔の翻訳小説風の小説を書くこと自体と重畳しているとも考えられます。そうした実験的でありながら、素晴らしい文体の小説だと感じました。一読の価値ありです。