番外編 小鳥と戯れる坊ちゃん
メンテがお世話するビオン様は、異形に見える呪いをかけられた所為で人目を避けている。
しかし太陽の光を浴びないのは身体に悪いということで、四方を壁に囲まれたビオン様専用の中庭がある。
出入りする為の隠し通路が存在して、使用人用と本人用で遭遇しないよう徹底管理された中庭。犬猫が迷い込む要素を徹底排除された中庭だけど、唯一迷い込む存在がいた。
「チュンチュン」
「チュン」
そう、小鳥だ。
太陽の光を浴びることを目的とした中庭なので、もちろん天井は囲まれていない。空路が自由なのだから、小鳥が迷い込んでも何ら不思議ではない。
さんさんと降りしきる日光に微睡むビオン様の元に、二羽の小鳥が舞い降りた。
整えられた芝生。控えめに咲き誇る花々。小さな木彫りのベンチで微睡む褐色肌の美少年。美少年に寄り添う小鳥たち。
(か、かわいい~~~~!!)
そしてそれを鑑賞する私。
(美少年と小動物のツーショットは可愛いに決まってるわ! ああ! 何でこの光景を記録する道具が存在しないのかしら!! このくらいの持ち運べる、この光景を保存できる道具はないの!?)
残念ながらこの世界に
(方法としては絵に残すとか…うう、でも私、下手なのよね…私が描くとかこの瞬間に対する冒涜にならない…?)
弟妹に似顔絵を描いて泣かれたことがある。いつも元気いっぱいの弟妹に泣かれて、流石にショックを受けたのでそれ以来絵は描いていない。
(でも、本当にこの光景を見られるのは私だけ…ならこの光景を残せるのも私だけなのよね…)
徹底管理された中庭には、限られた者しか入れない。
そしてその入場時間も決められて居る。もう少ししたら心を鬼にして、微睡むビオン様を起こさねばならない。でないと不幸な遭遇事故が起きかねないのだ。
(…そう、やっぱり私だけだわ…私がやるしかない…!)
そう、この愛らしい一瞬を後世に残す為!
かくして私はひっそりと筆を執った。
即後悔した。
「可愛く…可愛く描けないわ…!」
やっぱり脳からの映像を直接抽出する道具が欲しい。
どう頑張っても、子供の落書きのようにぐちゃぐちゃした輪郭になってしまう。
ビオン様は黒髪で褐色肌なので、絵にすると真っ黒になってしまうのも難点だった。色の使い分けが下手くそで、髪と肌の輪郭が曖昧になってしまう。目元はなんとかぐるぐる円を描いて、ここが目だとわかるように描けたつもりだけど…それくらいしかわからないわ。
小鳥も、寄り添うように描きたいのにビオン様の黒に埋もれそう。丸い小鳥を描きたいのに、でこぼこに歪んだ何かになってしまった。これってそもそも鳥に見えるかしら? 自信がないわ。
(ああ、あの頃から一向に成長していない画力…!)
あの頃から描いていないんだから当然だけど!!
(やっぱり私には無理だったわ…うう、出来る気になった自分が恥ずかしい)
しげしげと失敗作を眺めてため息を吐く。
ちなみに、絵は自室で描いていた。使用人は基本的に複数人で一部屋になるけれど、私の場合はビオン様のお世話係…異形のお世話をする手当として、他の使用人より優遇されている部分がちょっとだけあった。それがこの一人部屋。異形のお世話をする人と一緒に寝泊まりできないという人も居たので、どちらにも配慮した結果なのだと思う。
ただ、一人部屋はよくないと思ったわ。前任もこの部屋だったのだけど、壁が…ね? 前任の鬱憤が込められた壁になっていたから…相談役に同室の人、いた方がよかったと思うわ…私は大丈夫だけど。
流石にそのあたりは察しているのか、定期的に上司が声をかけてくれるし、病んでないかの確認もされるけれど。
(私は大丈夫ですけど! ビオン様は可愛いし!)
この絵とは違って!
そう思いながら紙を折りたたみ、ゴミ箱へと捨てた私は知らなかった。
燃えるゴミを回収した別の使用人がうっかり折りたたまれたその紙を見て、広げて、描かれている『鳥をぐちゃぐちゃにして食べようとしている異形の絵』を見て悲鳴を上げたなんて。
悲鳴につられて集まった数人が同じ絵を見て同じ感想を抱くなんて。
平気そうに見えて、やっぱり異形のお世話は精神をやられるなどと噂されていたなんて。
今日も明日も明後日も、可愛い坊ちゃんのお世話をする気概しかない私は全然知らなかったのだ。
食べませんから!! ビオン様は小鳥食べませんから!! 食べませんからねー!!!
呪われた異形のお世話係 こう @kaerunokou
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