エピローグ





 おれは、夜空に向かって、銃を二発撃った。土岐田銀杏はそれに驚き、振り返る。


「ゆうじさんから離れろ」


 銃口を銀杏に向けて、叫んだ。


「だったら、なんだ?今さら、こいつを助けようとしても無駄だ」

「うるさい。お前にゆうじさんを殺させはしない」

「もう、今さら助からない。虫の息だ」

「それでもだ」


 死を恐れない俺は一歩前進した。その迫力に土岐田銀杏は圧されて、一歩後退する。畳みかけるように、銃口を向けたまま接近すると、土岐田は銃を頭の上にあげて、体をひねった。その瞬間、闇の中からパトカーのサイレンが聞こえてきた。すると、銀杏は地面に情けなく倒れて、体を引きずるように立ち上がると、そのまま闇の中に消えていった。

 あっけないほどの幕切れであった。

 我に返って、ゆうじのもとへ駆けつけた時、彼はすでに息を引き取っていた。眠っているようで、何度も起こしたが、結局、ゆうじは一人の罪を背負い、死んでいた。



 それから俺は、やってきた警察に逮捕された。通報したのは社長であった。

 のちに聞いた話では、奈多が社長に電話して、すべてを話し、俺たちの危険を知らせたようだ。

 では、正確な場所が分かったのか?

 奈多は、土岐田銀杏の側近、金髪の男、志田のスマホにGPSアプリを仕込んでいた。この男は、常に土岐田銀杏と行動を共にしていたので、この男が山にいたのをGPSで知って、警察にその場所を教えたというわけだ。

 しかし、一足遅かった。ゆうじは死亡して、土岐田銀杏は逃げられた。志田他、銀杏の側近は逮捕されたが、奈多の誤算は、志田が逮捕されたことにより、銀杏の居場所が完全に分からなくなったことだ。

 彼がこの先、土岐田銀杏の陰に怯えながら生きるのは確実だろう。


 さて、俺は逮捕されて、取り調べの中で、すべてを自供した。そして、裁判の結果、初犯ということとその他事情を考慮され、執行猶予付きの有罪判決を受けた。



  *         *         *



 保護観察付きの俺は、両親が身元引受となり、地元に帰ることにした。


「チェーンソーの部品で、一番重要な部品は何だと思う?」


 ある時、社長が言った。


「さあ?」

「どの部品がなくても、チェーンソーは動かない。動かなければ、チェーンソーなど何の役に立たないんだ。それと同じで、組織の中で役割の違いはあっても、上下はない。みんな重要なパーツの一つなんだよ」


 山での出来事は、夢のようでありながらも、現実だったのだと、ふと思うことがある。

 そして、時折ふと考える。あの山で過ごした日々と、そこで出会った人々。それが俺の人生にとって、どれだけ大切なものだったのか。今はもう、戻ることはできないけれど、いつか戻りたいと思う。


 だから、忘れないように、俺は偶に山に戻り、自分が伐った木の切り株を見に行く。

 下を見ると、下手くそにチェーンソーを入れてある、切り株があった。

 それは俺か最初の頃に伐った木である。

 そして、その横に、はじめてにしては上手だと褒めらえたゆうじが伐った切り株があった。こうして、この切り株は何十年とここに残っているだろう。

 切り株の横から、芽を出した新緑の苗が青々としていた。

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落ち武者ちぇーんそーず kitajin @kitajin

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