第4話 プリンの甘さ
プリンには、流派がある。
なめらか、かっちり。卵の生地か、ミルクの生地か。苦めのカラメルか、甘めのカラメルか。
組み合わせは様々だ。私にだってこだわりがある。
私? 私はね。なめらかなミルクの風味豊かな甘めも生地に、ビターでさらりとしたカラメルソース。これで決定。
そして、そんなプリンをこの喫茶店は出してくれるのだ。
ああ、嬉しい。今週もここに来れてよかった。仕事を頑張った甲斐がある。
「いつもの、お願いします」
カウンター席、右から二番目。この時間はここが私の特等席だ。マスターがエスプレッソの深入りコーヒーに氷をあてて、真っ白なミルクを注いでカフェオレにする。甘味はなし。
そして、透明なグラスに入っている、よく冷えたプリン。生クリームなどのトッピングは断っている。薄いクリーム色の生地が、照明を受けてきらりと輝く。
これだ。これがいいのだ。
いただきます、と私は呟いて。心の中でわーい! とはしゃいで。銀色のぴかぴかに磨かれたスプーンを生地に差し込む。
愛おしい……。なめらかな生地はスプーンの先でとろけ、ゆるりとクリーム状になりながら掬われる。それをぱくり、口に含む。
味が濃く、風味に厚い生クリームをベースにした生地は、あまりにもこっくりと、そして儚く踊る。舌がダンスに惑わされたかと思うと、不意に消えてしまう。
ああ、もう! こんなに美味しくていいものか!
いやいや、冷静になりなさい、自分。もっといいものがこの下に待っているでしょう。うん。そうだね。
美味しさに握りしめていたスプーンを持ち直し、再びプリンに向き合う。この下、底。ガラスの外からも見える、焦げ茶色。カラメルソースだ。
今度は、深く差し込んで。焦げ茶色に生地をゆったりと絡ませる。もう、口が開いてる。このプリンを入れるために。
あむ。子供みたいな声が微かに出た。いいよ、それくらい。恥ずかしさなんか飛んでっているから。
「おいし」
にっこり笑った私の顔を見て、マスターも微笑みを浮かべる。三口と食べて、私はカフェオレのグラスを傾ける。
こんなに素晴らしいものが、この世界にあっていいものか。このときばかりは、私も神様というものを信じてしまう。
来週も、仕事、頑張ろう。午後三時が幕を閉じた。
【了】
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こぼれない言の葉 〈金森 璋〉 @Akiller_Writer
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