誰しも何かの天才である

kayako

天賦の才。それが失われてしまったら?


 

「私、ブリッジの天才だったんだ」

「ブリッジ?」


 休み時間、私は何気なく隣のタカシに話しかけた。

 彼は今日も鼻をほじりつつ、私の話を聞いている。幼馴染ではあるけど、この癖だけは未だに慣れない……


「体育のブリッジ。よく小学校でやらなかった?

 仰向けになって、手足踏ん張って背中を思い切り押し上げるやつ」

「あー、俺あれ苦手だったな~。全然踏ん張れなくて数秒でダウン」

「私、実は5分ぐらい出来たんだ」

「え、スゲ!?」


 思わず鼻から指を抜き、私をまじまじと見つめるタカシ。


「正確にいうと5分以上余裕で行けそうだったけど、あんまりみんなが見つめるから恥ずかしくなって5分でやめた」

「うわ、マジの天才じゃん」

「運動からっきしだったんだけど、何故かブリッジだけは出来たの」

「ふぅん。じゃあ俺、鼻をほじる天才」


 おちょくってんのか。私はため息をつく。


「でも、今は出来なくなっちゃった」

「何で?」

「思春期で太ったからとか、色々理由はあると思うけど。

 多分、真面目にやらなかったせいだと思う。

 何事も、ちゃんと続けていないと出来なくなるものね」


 さっき授業で、先生が言っていた言葉を思い出す。

『人は誰しも、一つは天から与えられた才能があるものだ』と。

 私の場合、その貴重な一つがブリッジだったとしたら――

 天から与えられた才能を一つ、潰してしまったことになる。


 成績は平凡。部活は何をやっても夢中になれず、大してモテるわけでもない私が、唯一持っていたかも知れない天賦の才。

 それを――


「へー、それでさっきから悩んでたのか。

 俺、ちゃんと続けてるからメッチャクチャにうまくなってるぜ?」

「鼻ほじりが?」

「あぁ!

 奥の粘膜あたりで固まってるやつを引きずりだせた時なんか、チョー快感だぜ?

 一緒に血が出る時もあるけどな」

「いや、ちょ、やめなさい気持ち悪い」


 鼻の穴を広げ、元気よくニカッと笑うタカシ。

 あぁ……この汚い癖さえなければ、そこそこイケメンなのになぁ。


「駄目だ、これだけはやめらんねぇ。

 天から授かった才能なら、なおさらだ!」

「もう、悩んでたのがバカらしくなってきたじゃない

 ……ふふっ」


 あんたは、私を笑わせる天才かもね。

 そう言おうとしたけど、言えなかった。

 ――何だか、気恥ずかしくて。



 Fin

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