事件

 それから数週間後の出来事だった。朝パンをたべながら眠い目を半分あけてニュースをみていると、シドはこの近辺で続く未解決事件の報道にふれた。

「もぐもぐもぐ」

「マルマタ市民病院近辺にて、連続行方不明事件がおこっています、病院関係者に行方不明者は今のところいません、警察は事件の関連性をおっています」

《ドタバタドタ》

《ガチャッ》

「おはよう、ルカー」

「シド!!何してんの、遅刻だよ!!」

「あれ?」

 シドは時計をみる。

「時間、まだ余裕が」

「スマホは?」

「あ、面倒だから充電してなかった」

「はあ……」

 ルカは時計を指さして、スマホをだしていった。

「時計、ずれてるよ」

「!!!」

『二人して遅刻だね』

 と、控えめにヨミンはいった。

「しかし妙だねえ」

「何が?」

 走りながら学校へいそぎ、シドはルカに呼びかける。

「だからさあ、失踪事件だよ、家の近くでこんな事がおこるなんて」

「……まあ、仕方ないんじゃない?こんな世の中だし……何が起きても仕方がないよ」

「そうだなあ……」

 この国の中央、には、巨大な塔がたっている。首都であるここからはよく見える。

天まで届く塔だ。それが“ウィッチジッパー”をある程度制御して、異世界からの落下物を監視している。まあもっとも、彼女―ヨミンがあけた穴が、なぜ感知されなかったのかは疑問だが。

『まずいです』

「何が?」

『ルカさん、なんか変じゃないですか?』

「変って別に?」

『いや、変ですよ、こんなに変な事が起きているのにきにしないなんて、それに、言葉と裏腹に、額に汗をかいています』

 ちらりと、ルカをみる。

「いや……走ってりゃ汗もでるだろ」

『冷や汗ですよ、目がおよいでますし』

 ちらり、と前をみる。車や人が行き交い、中には亜人―珍妙な姿をした異世界人もいる。耳が長く、乳房がいくつもあり、の全てを隠している女性がわきを通った。

「そりゃ、こんな世界じゃなあ」

『さりげなく聞いてみてください、彼はむしろ気になっていることがあるように思えます』

「なんで?」

『パフェマイナス1個でいいです』

「はあ、しょうがねえなあ、出費が減るし」

 ふと考える。毎週2個、なぜかパフェをおごっているが、そのパフェをひとつ減らすかわりに、お願いされたのだ。奇妙な話だ。こっちが好意で与えているものを減らすから、願いをかなえろとは、原点方式の願いは珍しい。

「ルカ、病院で気になることでも?」

《ビクッ》

「いや、そんな事はないんだヨ、それに、病院関係者は無事だし、あそこは街一番の大病院だ、何も問題はない、ないよ」

(……確かに変だ)

 と思ったが、シドは黙っていた。








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