お家に帰りたい

 歯車サプライズから二か月後・・・

富士子ちゃんがショートステイから帰宅する予定の日曜日。

いつもなら、昼近くまで寝ている子供達が早起きしたので、着替えてモーニングでも食べに行こうと言う事になり、支度していた。

さぁ行こうかと言う時、電話が鳴った。

こんな朝早くから鳴る電話は施設しかない。

啓介が電話に出る。

「はい・・・そうなんですか・・・それって数日って感じですか?・・・え?あ、そうなんですね。わかりました。すぐ行きます」

と電話を切った。

「富士子ちゃん、危篤だって。あと数時間だろうって。ごめんね、モーニングは、また今度ね」

子ども達にそう話す啓介は落ち着いていた。

「とりあえず、お腹に何か入れてから行こう。水分もしっかり摂らなきゃ」

麻衣は、食パンにジャム塗って、一枚づつ渡す。不思議なくらい、みんな落ち着いていた。


施設につくと、富士子ちゃんは肩で呼吸するような状態だった。みんなでベッドを囲み声を掛ける。すると、部屋の洗面台の蛇口から水がシャーッと出た。全員ビクッとした。蛇口はセンサータイプで、誰もいないので出るハズがないのに、勝手に水が出ている。

3時間経った、子ども達も小腹空いて来る頃だろうと、啓介を残して麻衣と子ども達はコンビニへ買い物に行った。コンビニに着くと啓介から電話が鳴った。

「お母さん、今、息を引き取ったよ」

声が震えていた。

たった五分の間だった。あと少し傍に居れば良かったと麻衣は後悔した。

「お母さんの私服とか持ってくれば着替えさせてくれるらしい。持ってこれる?」

啓介は震えた声で言った。

「うん、わかった」

麻衣は、一旦家に戻り富士子ちゃんの服と帽子、靴を袋に入れて施設に戻った。

エンゼルケアが始まる時

「ご家族の方は、こちらでお待ちください」

と施設スタッフに部屋の外にある小さなサロンに案内された。

待っている間、麻衣が

「富士子ちゃん、最後はどんな感じだったの?」

と聞くと

「うん、何か喋るように口をパクパクさせて、俺の顔じーっと見てさ、そしたらスーッと涙が流れて、目を閉じたんだよ。そのまま動かなくなった。止まったのがわかったんだ。てか、最後に泣いたんだよ」

声の震えを必死に抑えながら話す啓介。

麻衣は、頷きながら啓介の手を握っていた。

すると

「あのぉ、すみません」

という声が・・・。麻衣が驚いて振り向くと、ショートステイの利用者らしき高齢の女性が立っていた。

「はい」

と麻衣が返事をする。

「おうちに帰りたいんですけどぉ」

と、ゆっくりとした口調で話す女性に、なんとも言えない懐かしさが込み上げてきた。

麻衣は、にっこりと

「お家に帰りたいですね~、じゃぁどうやって帰ろうか一緒に探しましょうね~」完

と女性の手を引きながらサロンの中を一周歩き、

「そうそう、面白いテレビやってるんですよね~」

と女性をテレビの前に座らせた。

 

                           完


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はぐるま 杉後 佳 @sugishiro-kuma

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