はぐるま
転倒から一気に認知症は加速する事となる。
表情もどんどん無くなり、転倒から一ヶ月経つ頃には歩けなくなり、話しかけても
「はい」
しか言わなくなった。ベッドから自分で起き上がる事も出来なくなった。
一年半が過ぎた頃、食事もペースト状のものから、更にゆるいトロトロな液状のものになり、食事の時以外は目も開けなくなっていた。
啓介も麻衣も、心の準備をし始めた時、サプライズイベントが起きた。
富士子ちゃんの夕食を用意すると
「俺が持ってくよ」
と啓介が運んでくれた。
数分後・・・
「ママママ!ま!まいっ!」
慌てたような大声で呼ぶ声に、頭に浮かんだ『まさか!』という思い。急いで階段を駆け上がり
「どうしたの?」
部屋に飛び込むように入ると、そこには・・・
「あら、麻衣ちゃん。どうしたの?そんなに慌てて」
とニッコリ笑う富士子ちゃんがいた。
「え?・・・富士子ちゃん。ええ?私の事わかるの?」
そう聞く麻衣に啓介が
「そうなんだよ。さっき、俺の名前を呼んだんだよ。」
興奮気味に話す。
「なぁに?当り前じゃないのぉ」
と、富士子ちゃんは穏やかに笑っている。
口調もしっかりとしている。不思議すぎる。
いや、奇跡ってやつなのかもしれない。
頭の中の歯車が、カチッと綺麗にはまったようだった。
「麻衣ちゃん、お茶貰えるかしら?」
認知症が嘘だったかのように、富士子ちゃんは話す。
「うん。お茶ね。ちょっと待ってて」
急いでキッチンへ行き、お茶を淹れてると、啓介が来て
「俺が持ってくよ」
嬉しそうな顔で、お茶を運んでいった。麻衣も後からついていく。
「お母さん」
そう言って部屋に入っていくと、そこには無表情で無気力な富士子ちゃんが椅子に座っていた。
「お、お母さん?」
「富士子ちゃん?」
啓介と麻衣が声を掛けたが、反応は無かった。
「まじかー。離れないで、ずっと会話を続けてたら違ったのかな?超奇跡だったんじゃん?」
啓介は、大きくため息をつき、寂しそうな顔で言った。
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