第3話 ギルドでの一悶着

「おい、お前ら」


 不意に横から声がして顔を向けると、そこには見知らぬ冒険者のパーティが立っていた。


 5人のパーティで、見た目からしてならず者のような格好をしている。

「お前ら、世にも奇妙な"欠けの転移パーティ"じゃねーか。景気はどうよ」


 リーダーなのだろうか、若そうな金髪のオールバックの剣士がにやついていた。

 さきほどコソコソと噂話に興じていた奴らだ。

 侮蔑しているような顔で俺たちの事を見定めている。


「何か用か?」

 アリスとの会話を中断し、なるべく温和な態度で答えるユウジ。


「用ならたくさんあるねぇ。お前らがいるせいでクエストが減っちまってるだろうが。それをどうにかしてくれると助かるなぁ」


 見覚えのない冒険者の敵意のこもった声に、アリスが不安そうな顔でこちらに視線をよこす。

 それを横目で見ると俺はため息をつきながら立ち上がった。


「悪いけど俺たちは話してる途中なんだ。邪魔しないでくれ」

「ああ?うるせぇよ。魔女を倒したからって調子に乗るのもいい加減にしろ。こっちは仕事が減ってイライラしてんだよ」


 それは全くの八つ当たりだった。

 クエスト以外にも冒険者が稼ぐ手段はあるはずなのに、それを俺たちのせいにして絡んでくる、その魂胆が気に入らない。


「お前らの仕事が減ったとか知らないんだよ。弱いからダンジョンにも潜れずスキルも上がらないからろくに金にならないんだろう」

「てめぇ、好き勝手言いやがって」


 俺が思ったことをつい言ってしまうと、その男は握りこぶしを作り、わなわなと体を震わせていた。

 こんなところでダガーを抜きたくはないのだが、相手が分かってくれないのであれば仕方ない。


 街中でスキルを発動するのはご法度だが、いつでも仕掛ける準備はできている。

「お前らはあの女神がいないと所詮何もできない奴らじゃねーか。かかって来いよ。"欠け"のパーティさんよ」


 俺は再度その言葉を聞いた瞬間、躊躇なくスキルを発動させた。

 小さくクリーピングシャドウとつぶやくと、一瞬でその冒険者風の男の後ろに回る。

 俺はその男の手を後ろに回し締め上げ、首元にダガーの刃を向けた。


「次、俺たちに関わってきたら間違いなく刺す」

「な、なんだよ。ただ俺は挨拶しただけじゃねーか」


 ダガーの切っ先が男の喉元に軽く触れると一筋の血が流れ落ちた。

 男は「くそ、離しやがれ」と言い俺の腕を解き、その冒険者の男は仲間を引き連れて館から出ていった。


 俺たちはテーブルに座りなおすとユウジが諭した。

「ハジメ、お前あんなことする必要ないだろう」

 呆れたように俺に視線を向ける。


「"欠け"とか言われてヘラヘラ笑ってろって言うのかよ」

「でも、俺たちの記憶が欠けてるのは事実だろ」

「それはそうだけど、知らない奴にそんなの言われる筋合いは無い」


 俺は憮然として答えた。

 いい加減にああいう輩に飽き飽きしていたのだ。


「やめてください。これ以上喧嘩するんだったら、二人とも水魔法でびしょ濡れにしますよ?それで頭が冷えるでしょう?」


 アリスが立ち上がり、声を上げる。

 そのちょっとズレてる発言に俺たちは吹き出した。


「ハジメはアリスの水魔法食らいたいか?俺はごめんだな。アリスのは水じゃなくて洪水だぞ」

「威力が凄いからな。この前当たった時、体がへこんだまま戻らなかったぞ」

「何笑ってるんですか!洪水じゃないし、へこみません!」


 しばらくそんな会話をして日が暮れる時間帯になると、俺たちはギルドの外に出て別れた。


「じゃあここらで解散でいいか?」

「ハジメさんはどうします?」

「俺はサキのところに行かないといけないんだよな」

「じゃあまたクエストか、飲むときに呼ぶわ」


 ユウジがそう言うと俺たちは別れの挨拶をして、街にそれぞれ散っていった。

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2024年12月23日 06:00

私とあなたのアイディールワールド~あなたが真実に気づいてしまったのでせっかく転移したゲームの世界を消滅させました~ アガタ シノ @tanakadayo_7

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