ミッション6

ミッション6



 先に屋内に飛び込んだのはステア。銃を正面に構えて辺りを注意深く見やる。続けてリースも同様の動きで中を見回した。


 出入り口の玄関ホールから正面に受付がありその右手側が奥へ続く廊下とすぐ右にも通知がある。右側通路は男女の化粧室になっているようで、二人は無言で頷き合い奥の廊下へと進んでいく。一番奥には階段があって二階へと続いている。廊下の途中にあった扉をステアは音を立てずにそっと押し開く。瞬間にリースが拳銃を構えつつ飛び込んだ。辺りを素早く見回すが何も無く人影も見当たらなかった。



「……誰もいない」


 背後でステアが少し拍子抜けしたように呟く。


「ネズミはいるかも知れんな」


 続けてリースが言い二人は警戒を解く。勿論、拳銃は手にしたままだが。



「ねぇ。それって冗談なの? マジなの?」


 ステアはリースを振り返りつつ聞いてくる。


「……冗談を言ってるつもりはない」

 

 ステアに意外そうな顔をしつつリースは答えた。そうするとステアは苦笑して肩を竦めた。


 

 カウンターやスツール、ローテーブルとソファ。バーにある物に事細かく注意を向ける二人。


「特に、これと言ったものはないね」


 ステアはカウンター奥に陳列されたありとあらゆる【酒】を興味深く眺めている。


「結構良いもの揃ってるなぁ」


「そうだな」


 リースもカウンター越しに頷く。


「そう言えばーー」

 ふと思い出したように、

「アニーちゃんは『彼女』なのか?」

 と、彼女の部分を少し強調させて聞いてくるリース。



「やっぱ分かるぅ〜?」

 急に振り返って満面の笑顔を見せるステア。

「そ。俺の未来のワイフ(妻)になる聡明な女性だからね!」

 幸せそうな笑みを浮かべ自慢するように言った。



「それは良いことだな」


 リースもステアにつられて柔らかく微笑んだ。


「リースはさぁ」

 ステアはカウンター奥からするりと抜け出し、

「いないの? 彼女」

 リースの隣に立つと彼を覗き込んで聞いてみた。



「……」

 少しだけ沈黙するリース。

「どうだかな……」

 ステアから視線を逸らすようにした。



「その反応は、いるって取っていいよね」


 リースを上目遣いで突き刺さるような視線を送るステア。


「……どう、だろうな」


 ステアから離れるように数歩横に移動したリースは歯切れ悪く答えた。



「うん、分かった分かった。そう言う事にしておくからさ」


 ステアは一人納得したように頷いて見せる。


「……そう言う事にしといてくれ」

 呆れてリースは苦笑混じりに呟き、視線を店内の奥側に向ける。

「ーーまだ奥に部屋があるな」


 カウンターのすぐ左側には木製の扉があり、二人は再び目配せし合い扉を押し開く。



「……倉庫?」


 ステアが少し眉を顰めてそう言う。そこは三畳程の狭い空間でステンセス製の棚や所狭しに段ボールなどが積み重なっており、倉庫室と使われている小部屋だった。



「……」


 リースは辺りを見回した後、しばし考え込むように左手を顎に添えた。



(これで終わりか? でも人の気配がするのは何故だろうか? 三年も放置されていた割には化粧室等はまだ使用出来る。――と言う事は、この建物を何かの目的で使用している人物がいる、筈なのだが……)

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カオスティックワールド 伊上申 @amagin

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