ミッション5

ミッション5



 カナンダ地区シーサイドエリア五番――ルーンヴァレイ公国のヴァレスティア市の中心から少し離れ海に面したこの場所は、エリアが番号で区分されている。


 SDが出動要請を受けた五番は、あまり治安が良くない歓楽街で、ミッド連合SDよりは警察組織にお世話になっている連中が闊歩しているに等しい。




 今回の任務にあたるSD隊員は、隊長であるリースは勿論、ステアとアンリ、それにケイン・アルジャ・フォードの四人。


 廃墟ビルは歓楽街から少し離れた人気のない交差点に隠れるよう奥まったところにあった。



「こんな所に出入りする奴等の気が知れねぇよ……」


 廃墟と化したビルを一目し、ステアは眉間に皺を寄せた。


 ひと昔にパブやバーを経営していたのか、三階建ての横長な雑居ビル。一階は店で二、三階は従業員の住居スペースとなっているようだった。


 建物の左側に店の出入り口があり、その左側の壁は鉄製の階段が隣接しており、そこから二階へと入れる仕組みになっている。



 不意にリースの左手首に装備されている腕時計式通信機がアラーム音を発する。それを顎付近まであげた途端、通信機から空間映像が映し出された。


『聞こえますか? 先輩』


 空間映像に映っているのはキクチヨの姿だった。


「ああ。問題ない」


『建物の基礎情報を送ります』


 キクチヨがそう言うと彼の姿は消えて代わりに捜査対象になっている建物全体のワイヤーフレームが映し出される。この通信機はリースだけではなくSD隊員の基礎装備であるため、現場にいるステアやアンリ、ケインも同様に自身の通信機にて確認をしている。


『三年程前までバーとして経営。倒産し当時の備品そのままで現在に至ります』


「そうか。情報は以上か?」


『はい。では、捜査を開始してください』


 淡々と事務的に告げるキクチヨはその言葉を残して通信を終えた。



「では、俺とステアは一階。アンリとケインは二階の調査を……」

「えぇ〜? 俺、隊長となの〜?!」


 リースが指示をするや否やステアの不服そうな声が被さる。


「……」


 リースが呆れたようにステアを見やるとアンリやケインも同様の視線でステアを見ていた。



「そんな冷たい視線で見なくてもいいじゃん」


「まあ。何もない事を祈るわ……」


 溜息混じりに呟いて、アンリはケインを連れ立ち先に二階へと移動をした。



「……俺じゃ不服なのか」


 言いつつリースは腰のホルスターから拳銃を取り出した。――全長約205ミリ、重量850グラム、装弾数10発。ライトスコープ搭載。女性では少し重たい印象を持つこの拳銃は、SDの基本装備の一つで、SD隊員は全員所持している。



「ねぇ、それって冗談?」

 軽い口調で言ってステアもまた拳銃を取り出す。

「俺はアニーちゃんと離れたくないだけなんだよ」

 と、小さく零した。


「……『アニーちゃん』?」


 ステアの呟きを聞き逃さなかったリースは眉を顰めておうむ返しに聞き返す。


「そ。俺の愛しのアニーちゃん。アンリの事ね」


 二人、利き手側に銃を構えつつ出入り口の左右に立ち並ぶ。互いに目配せしつつ、


「それは、悪かったな」


 そう言うと同時にリースは出入り口の木製扉を蹴り開けた。

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