ミッション4

ミッション4



「……『惨殺』?」


 リースは自分の隣にいるキクチヨ・ミフネの報告に片眉をあげておうむ返しする。彼は東洋系の出身で、リースやホルスの後輩にあたる。リースの事を何故か尊敬しており、唯一『先輩』と呼ぶ人物だった。



「はい」

 と、キクチヨは一つ返事で頷き手元にある空間映像のキーボードを素早くタッチする。

「……マイクロドローンの映像です」

 言いつつ、皆が見えるであろう、会議室の中央に巨大な空間映像が映し出される。



「ぅ、わっ、最悪じゃん……」


 大袈裟に眉を歪ませたのはSD隊員の一人であるステア・クレイガー。


 空間に浮かんだスクリーンに映っていた映像は、アンドリアン・インディの身体のみ――頭部は首からすっぱりと切断されており、左足首も綺麗に切り裂かれている。



「この後ーー」


 キクチヨが続けて言ったのち、



 ―…ザ、ザザザッ……!


 ブツンッ!



 映像は突然乱れて糸が切れたかのように沈黙した。



「……乱気流か何かに巻き込まれ映像は途絶えました」


 淡々と言葉を紡ぎ静かにリースの隣に座るキクチヨ。



「ちょい待ち。……『乱気流』って何?」


 ステアは軽薄そうな喋り方をするが、戦闘射撃やライフルを扱わせたら右に出るもにはいないくらい百発百中の腕前だ。そんな彼は切れ長の眉を微かに顰めてキクチヨに聞く。



「……」


 キクチヨはちらりとステアを見て口中で溜息ひとつ。徐に、呆れた視線をステアに向けつつ、


「ー…空気中に渦が生じて乱れ……」

「『乱気流』の意味は分かるっての! ついでに馬鹿にした目線で俺を見るな!」


 ステアはキクチヨの言葉尻を遮り一人捲し立てる。


「ちょっと煩いステア。黙っててくれない?」


 ステアの隣に座るアンリ・スティンベレットは容赦ない一言で彼を黙らせた。



「…ステアさんが『乱気流って何?』って聞いたんじゃないですか」


 呆れるキクチヨ。


「いやいや。俺が聞きたいのは何で安定した森林公園で乱気流なんて起きるんだよって事!」


「だったらそう言ってくださいよ、回りくどい」


「…お前っ、ほんっとそう言うところ……っ」


 お互い言い合う二人に終止符を打ったのはリースの言葉だった。



「その『乱気流』が、第三者の手だとしたら?」


「……そんな事、あるか?」


 リースの言葉に意を唱えるように言うホルス。



「無いとも言い切れん。問題は、あの兵長がどこの者と内通してたかって事だな」


 言って、リースは何かを考え込むように顎に手を添えた。



(…どうも腑に落ちない。インディ兵長にわざわざクリーチャーを使わせてまで北天騎士の一部隊を動かす目的……我々SDを始末するのにそんな手間の掛かる事をしなくても……もし、内通者の目的が他にあったとしたらーー?)



 リースがそのような事柄を頭の中で巡らしていると、第一支部会議室にけたたましい警鐘音が鳴り響く。続けて入る音声。



『一般市民からの通報。ヴァレスティア市カナンダ地区シーサイドエリア五番の廃墟ビルにて複数人の人物が出入りしている模様。他国軍による密会及びクリーチャー出現の可能性を考慮しSD出動を要請する』



 緊迫した声に、SD隊員等は互いの顔を見合わせ静かに頷いたのだった――

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