第16話 勝利と学び
「ロラン、盾を構えて防御に徹しろ!」
ダリルから端的に指示が飛ぶ。
「エレアンヌは後ろに下がれ、タイスは……任せる!」
「ああ、好きにやらせてもらうぜ」
亡者たちを前に、パーティーの隊列がじわり、と解けて形を変える。四人は通路の片側に寄って、やや斜めに壁を背負った形になった。
盾を構えたロランが前列に。ダリルとエレアンヌが後方で戦場全体を俯瞰する。タイスはロランのわずかに後ろで柱の陰に身を潜め、奇襲の隙をうかがおうと狙っていた。
船員の死骸がべたりと踏み出し、
「う、うわぁっ!!」
そこへ右手の剣を打ち合わせて止める。横合いからもう一体が迫り、ロランは負傷を覚悟した。だが、その亡者は濡れ毛布を叩くような鈍い音と共に後方へ崩れた。タイスが割り込んで、足裏で亡者の胴を押し戻すように蹴ったのだ。
「しっかりしろ! 盾はな、相手をしっかり見て、動きに合わせて構えるんだ……盾に隠れちゃダメだ!」
「はっ、はい!」
――こういう相手なら、まあ正しい。
背後のダリルからそんな声も飛んだが、ロランにはまだ全部を飲み込むことはできていない。だが、そこまでで時間は稼げたらしい。
「
路地裏で使ったのとは別の呪文が唱えられた。ロランの前方、一フィートほどの虚空から扇状の火炎が渦を巻いて吐き出され、亡者たちを薙ぎ払ったのだ。
――グルルルルルル……!!
人間のそれとはほど遠い叫びが彼らの喉から漏れ、身に残った死肉が焦げ引き攣れるのに従って途切れ、消えていく。ぶすぶすと煙を上げる亡者たちの残骸が床に投げ出され、それでもなおなにがしかの部分が邪悪な命を帯びてまだ動いていた。
「仕上げは私が。こうした亡者にも、安息が与えられるべきですから――」
――海よ、薫風をもてこれなる呪いを吹き散らし、彼らに永遠の凪をお与えください……!
女神官がその信仰に拠って紡いだ祈祷の詩句が、迷宮の闇の中にあってなお、眩い昼の陽光と風をこの場に導き入れた。汚れた肉が溶けて光の粒子となり、ふわりと拡散して消えていく。
あとには、幾振りかの錆びた
「ふーっ。どうにかなったな……新米二人を抱えてこれなら、まあ上出来だ」
「すみません」
恐縮するロランに、タイスはいやいやと首を振った。
「まだろくに訓練も受けてないんだろうが。生き残っただけでもたいしたもんだ、その場数を増やしていけ……で、盾だがな。真正直に構えるのは間違いじゃないが……相手の得物が剣や斧なら、もっと上手い受け方がある。盾の面じゃなくて、縁を使うんだ……面ならお前を守るのは板の厚さだけだが、縁なら」
そう言うと、タイスはロランの腕を盾ごと持ち上げ、落ちていた舶刀をその縁に押し当てた。
「こう使う。こうすると、盾を作る板の長さ、差し渡しいっぱいを板の厚みと同じように使えるわけだ」
そうか、とロランは盾に軽く食い込んだ刃を見つめた。きっちり敵の攻撃に合わせなければ逆に自滅の元だが、これは受ける武器の種類次第では非常に強力な効果がある。
「そうか、だから『相手を見』なきゃいけないんだ……」
「そういうこった。分かるな、本物の戦士は、決して相手から目を離さないもんさ……は、まあ俺は
貴重な学びを得た。一人静かに心の内で意気上がるロランをよそに、他の三人は戦利品を吟味していた。
「舶刀だけ持っていこう。服や靴は捨てるよりほかにないゴミだが、これは地金程度の価値はある」
「……回廊だから仕方ないが、まあしょっぱい稼ぎだな」
「先へ進みましょう……タイスさんのおっしゃることはつまり、玄室ならもっとお金になる、ということですわね?」
女神官はにこやかにほほ笑んだ。言う間に手の方もかいがいしく動いて、床に散らばったごみを掃き清め、それなりの重量がある
「……そんなに一人で抱えて、歩けるのか?」
「神殿では、力仕事も修行の一環ですから」
荷物をまとめ直して背中に担ぐと、エレアンナはまた元の位置に戻り、ダリルの隣に立って歩き始めた。
そうして彼らがさらに進むと――不意に、エレアンナの手元から明かりが消えうせた。
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