私の推しは今日も死ぬ。

との

第1話 バトル漫画の主人公の相棒ポジ

 今日も私の推しが死んだ。


 死なないと思っていたのに。

 いや、思い返せばこのアニメを見始めた最初は死にそうだなと思っていた。

 彼は、敵に操られて高校生の主人公を襲った。謎の転校生として現れた作中の最初の敵だった。主人公に倒され、その呪縛から解き放ってくれた恩を返すため、敵を倒す旅に同行することを決意した。

彼が死なないと思ったのはその道中、身を挺して主人公たちを守ったのにも関わらず、死ななかったからだ。死にそうな傷を負いながらも病院のベッドの上から、主人公たちを応援する彼の姿にわたしは心打たれた。戦線からはリタイアする形になったが、物語的にもここで死ななければ、この先死なないだろうと思ったため、わたしは安心して彼を推した。

 小さい頃から異能力を持つ彼にとって、主人公たちは初めてできた仲間だった。これまでの人生で出会えなかった、心許せる仲間を身を挺して守り抜いた彼の姿は本当に素敵だった。

 だから、彼にはこのまま物語の終わりを病院のベッドの上で迎えてほしかった。

 戦い抜いた主人公たちを「よくやってくれた」と嬉し涙で迎えて欲しかった。

 だけど彼は戻ってきてしまった。最終決戦の前に治療を終え、主人公たちと合流したのだ。

 嫌な予感がしなかったわけではない。だけど、致命傷を負ったにも関わらず生き残ったという功績が彼にはある。わたしは心の中で死なないでと願いながら、闘いの行末を見守った。


 結果、彼は死んだ。

正体不明の敵の能力を見破るために大技をしかけ、それを破られ死んだ。

 敵の能力は判明し、主人公たちの助けにはなった。けど死んだ。死んでしまった。


 なぜ戻ってきたんだ。


 そう思わずにはいられなかった。

 あのまま病室のベッドにいてくれれば、どんなによかったか。

 倒したあとエンディングのワンカットでパジャマを着たまま主人公たちと病室で笑い合うシーンが見れたらどれだけよかったか。


 このアニメは1980年代の漫画が原作だ。2024年になった今でも積極的にメディアミックスが行われている。続編では、高校生だった主人公は成長し、20代、30代、40代と成長し、娘をもうける。わたしは未履修だが、なんなら娘が主人公の作品だってあるらしい。


 だけどわたしの推しはそこにはいない。


 ときどき考える。彼が成長したらどんな大人になったのか。大学生になるのか? どんな仕事をするのだろうか? どんな人と出会うのだろうか? 誰かと恋に落ちるのだろうか? どんな夫になるのだろうか? どんな父親になるのだろうか?

 それを公式で見ることはない。

 だって彼は死んだのだから。


 だからわたしは今日も新しい作品を探す。


 死なない推しに出会うために。

 


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