奇跡の軌跡

めいき~

天然

ササラが、タウンで呟いた。


「暇だなー」このゲームのタウンは、自分でデザインできる。

お店の位置も、素材がクエストクリア毎に掘れる場所を作ることも。


そのタウンの端っこに置いた木箱の上で、自分の作ったアバターにそんなメッセージを言わせていた。


(ピコーン)そんな入室音と共に、ワタさんとカイ君がやって来た。


「また、ササラさん暇そうにしてるよ…。そんな暇なら、手伝って欲しいクエストがあるんだけど」


ワタさんがそんな事を言って、ササラがジト目になる。


「また、初心者のお手伝い?このゲームも、大分過疎ってるからね。クエストいくのも一苦労って感じ?今からの人は大変ね~」


そういって、木箱の上から飛び降りてスカートをパンと叩いた。


「カイ君はどうする?一緒にいく?」そういって、後ろ手にしてのぞき込む様に尋ねるモーションをしながらササラが尋ねる。


「ササラさん、俺攻撃役なら行ってもいいすよ」


少し赤い顔で、カイが照れながら答えた。


「じゃ、その娘ここに呼んでよ」そういって広場の地面を指さすモーションをした。


「フルパワーでいいっすよね、ササラさんがやるなら遠慮はいらなそうだ」


そういって、重量級の弓を背中に背負った。身長が高いカイの二倍はあろうかと言う、黄金の弓。


それを見て、陽だまりの様に笑う。


「ゆるーくやろ♪」


そういって、先にクエスト貼ってるからと言って看板に話しかけたあと姿が消えた。


耳に手を当てたワタが、「理恵さん直ぐ来るって」そういってポケットにあらゆる薬品をがちゃがちゃと物音を立ててつめていくのをカイがあきれ顔で見ていた。


「ササラさんがやるなら、その薬全部無駄になるって」



「凄いね、その信頼」ワタさんがそれを聞いてカイに言うがカイは苦笑いした。


「武神、龍王丸。このゲームでも最強格の難易度のボスでステージ始まってすぐ50分かけて一体のボスを六人で倒す。普通のチームがやるならどんだけ準備しても、事故は避けられない。だって、範囲即死もあれば範囲もある。そして、一死終了。誰か死んだら終わり、伝説のギスギスクエストをゆるーくでやれる人は俺あの人しか知らないよ」



そういって、ササラが貼ったクエストボードからクエストに入ってカイの姿が消えた。


「私も、ずっと二年一緒にササラちゃんとこのゲーム毎日やってるけど。ゲームでそんな信頼できるって凄いな。ちょっと、羨ましいかも」


そういって、呼び出した理恵と合流してクエストボードを指さした。


「よろしくお願いします…」自信なげにうつ向く理恵の背中をワタは軽く叩いた。


「大丈夫だよ、カイ君はともかくササラちゃんはゆるいから。ギスギスになんてならないって」


そういって、精一杯の笑顔を作る。


理恵は一度、このクエストの募集に行って散々な目にあった経験でかなりしょげていた。


スタート地点では、ササラがトントンとリズムを取りながら。サンダルに布と呼ばれる装甲の薄い服を着て杖を持って待機していた。それを見て、ワタと理恵の眼が点になる。


「龍王丸のクエストで、魔法使いに布?大丈夫なのこの人」


その呟きを聞いて、カイが爽やかな声で言った。


「そこらの、重装備のガチガチに固めただけのアホよりは全然信用できるって。心配なのは判るけどな。あんまり心配なら、ワタちゃんの面倒だけ見てやってよ」


そういって、にこやかに手を出した。


「ひっどい~、カイ君」


ワタがほっぺを膨らませて、苦笑する。


「さっいこ♪素材揃えるなら回数いるでしょ。忘れ物はないですか~」


そういって、始めようとするササラに理恵はあたふたした。


「指示とかは無いんです?前の部屋では第一段階は~とか言われたんですが……」


カイドウとワタはササラの方を見るが、ササラは肩を竦めてこういうだけだった。


「全員で左足を攻撃、ダウンしたら頭。後は、ヤバそうなら離れて回復するなり魔法唱えるなりで準備万端整えて戻ってきて。戻って来たら、再びボスを殴るのに参加。それ以外は無いです♪、ヤバそうならっていうのはトイレや電話やコンビニ行って飲み物買ってくるのも含まれます♪」


「は?!」そのまま、理恵の疑問を待たずにスタートボタンを押したササラ。


「本当に大丈夫なの?あの人…」



デカいステージの真ん中で、鎧の龍王丸がモノクロで佇んでいた。



「さてと…、ほんじゃ行きますか」


武神の鏡の様に磨かれた盾に、杖をこつんと当てた瞬間龍王丸の眼が怪しく光る。



消える様な動きで、剣を振り下ろしたそれをササラが杖を両手でもって万歳する様にして止めた。



「嘘…」ササラは比較的詠唱時間の少ない魔法を連打して武神に当て続けあっというまにヘイトを稼いでいく。


このゲームではヘイトはダメージとスキルで稼ぐが、ダメージで稼ぎ続ける場合一回でも転倒するか全員のダメージ量に押し負けるとあっというまに持って行かれて大惨事になる。


(だから、本来はスキルの方で引き付けるのが普通だ)


それを、だるそうな表情のまま魔法使いの杖一本で純物理の第一段階の武神の攻撃を凌ぎながら攻撃を当て続けているのだ。


しかも、回復やバフの魔法の完成の硬直を利用して相手のチャージ技で転倒しないようにしている。あれは魔法判定だから、あれをガードすると転倒してしまうのだ。



「だから言ったろ、ササラさんなら大丈夫だってさ」


それから必死に、武神の左足めがけて攻撃を当てていく。



相手の、HPが20%位減ったかなと言った時にササラが全員に聞こえる様に言った。


「必殺技の枠あけといて」


このゲームでは誰かが必殺技のモーションに入っていると、他の人は必殺がうてない。


杖で、嵐の様な連撃をはじきながら武神の鎧に向かって魔法でペガサスの星座を穿つ。



素早く、右足で二回地面をノックした。



その瞬間、理恵はササラが何故あけて欲しいかという意味を理解する。


「武神の鎧が血の様な色に…って事は次は死の芳香!」剣が怪しく煌めいて、黒と紫の雷撃が武神の剣から吹きだした。


その噴き出した様なオーラが即死の大地を作り、マップ全体に広がっていく。



「日輪よ、仲間を照らせ。天馬は鎧を翔け抜けて、その軌跡は邪悪な力を癒して喰い破る数多の星の精霊よ。天球術:天馬の夢風」



術の完成と、武神の死の芳香の完成がぴったり同じ。


それによって、四十秒のタメがいる必殺の封殺術が即死の固有スキルを完全に封殺した。


「さっすが、ササラさん!!」


「「うっそでしょ、あんな正確に合わせられるなんて!」」理恵とワタの声が重なる。



「あれが簡単にできるから、ササラさんがホストの時はダメージを押さえなくていいからすげーたのしいわ」


ここぞとばかりに、カイが巨大な矢を連射で浴びせダメージがどんどん膨らんでいく。


ワタと理恵も続いて魔法と斧で言われた通り左足と頭を狙った。


次の、HPが50%を切った時。武神の剣が再び煌めく、今度は蒼と白のトルネードの光が螺旋状にまとわりついて大上段に構えた。



「やっば…、思ったより削りが早かったか?」カイがそんな事を呟いてワタが慌てて防御アップの呪文を唱えるが既に技のモーションに入っている為手遅れだ。



それを、体勢を低くして両手を前に突き出して地面に肩膝をつく様にササラが構えた。


「そんなの失敗したら、一瞬でHP奪い去られるわよ!」


そんな事を、ワタが叫ぶ。カイと理恵も、かたずを飲んで見守る。



熱風を伴って、轟音と共に振り下ろされた剣と雷撃を完全に受け止め威力を流す。


雷撃は杖を通って、地面を抜けていき。剣を杖の腹で受け止めたササラは僅かにノックバックしただけだ。


「これで固有技は後一つ凌げばクリアだから、みんな頑張ってね」そう言って、額に脂汗をかきながらもこれを凌いだ。



「凄すぎ…雷帝の閃光剣を杖術の獣でしのいじゃった」



※杖術の獣:タイミングを千分の一フレームで技の当たり判定にぴったり合わせる事が出来ればその技のダメージをゼロに出来る。但し、杖術の獣の効果がでるのは構えてから4秒後なので合わせるのは至難。



「俺は、あの域には達してねぇからなぁ。下手に鎧を着ると重くて、苦労するって言ってたぜ?」





そういって、ボスを難なく倒すとタウンに戻ってきた。



「おつかれ~」そういって、笑うササラ。その後ろから、並んで帰って来たカイとワタと理恵の三人。


「何処でそんな技覚えてくんのよ、ササラちゃん」


ワタがジト目で、ササラに尋ねた。


「ソース?暇つぶしに色んなことをソロで試してたら出来ちゃった☆」


そういって、左目で軽くワタにウィンクをした。


それを聞いて、ザッザと音を立てて歩いていた三人の足音が止まる。


「できちゃったじゃねぇよ…、こちとらアンタの凄技コピーすんのに死ぬほど努力してんのによ」


そういって、カイが両手をあげてお手上げのモーションをした。


それから、理恵の素材が集まるまで周回してその日は終了し…。


後日、ワタと理恵がササラの話で盛り上がりましたとさ。



(おしまい)



【三題噺 #47】「木箱」「広場」「物音」

【三題噺 #46】「鏡」「龍」「日」

【三題噺 #45】「リズム」「芳香」「ノック」

【三題噺 #44】「足音」「コピー」「ソース」


全回収してると思います…(小声

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