第13話 2度目の再会

私は嬉々とする自分の心を抑えながら、ラビットさんを席に案内した。


『めちゃくちゃ久しぶりじゃないですかー!』


私はなんで来てくれなかったんですか?なんてちょっとむすくれた感じでラビットさんに問い掛けながらおしぼりとお水を出した。


『俺来てたんだよ、NANAちゃんに会いたくて。何回か来てたのにNANAちゃんが居なかったんだって』

『え!?そうなんですか?』

『これ、見たらわかる?』


そう言って差し出したのが、お店のスタンプカード。

お店のスタンプカードには、スタンプと日付が記載される。

20回来店で、1ドリンクサービスといったよくよくありきたりなスタンプカード。

そしてラビットさんのそのスタンプカードを見ると、間違いなく5回ほど、スタンプが刻まれていた。


今思えばそれはまるで神様がラビットさんとは会っては行けないと、案じているからこそすれ違わせているのでは無いかというくらいのすれ違いだった。


『……ほんとだ。え、これなんか前の日と次の日はNANAここに居たのに!』

『そうだったの?俺、NANAちゃんにもう会えないのかなって思ってたし』


この時はそんなになってまで私のことを探してくれていた事が、ただただ嬉しかった。

今日会えたなんて〝運命〟じゃんなんて、本当に喜んだ。


お客様が少なかったこの日。ほぼほぼお客様と言っても常連さんのみの店内は仕事がしやすく、私の他にもメイドさんは1人居たけれど、その子は常連さんと話をしてくれるからこそ私はほぼほぼラビットさんに付きっきりでお話が出来た。

接客がしやすいのは常連さんだからこそ、そういう配置になったのかも知れないけれど、私にとってはそれが今はとても都合が良かった。

私はラビットさんの前に着くと、この前話途中になってしまったラビットさんが声優を目指していた話を始め、最近のアニメについて本当に色々な話をした。

何が好きとか、過去には何を見ていたのかとか。

話は全然尽きなくて、あっという間にそれこそ仕事をしてる感覚なんてないくらいに時間は過ぎていった。


『ラビットさん、そろそろ時間なんですけど……』


お店のルールで、一時間毎に席の延長料金が掛かるため、全てのお客様に延長するのか、しないのか、延長してくれるのであれば1オーダーを頂かなくてはならない。

ラビットさんは腕時計を見ると『もう、こんな時間か……』なんて呟きながら、私の顔を見た。


『ねぇ、NANAちゃん。次いつ居るの?』

『え?』


これもお店のルールなのだが、基本的にお客様に自身の出勤日を伝えるのはタブーだった。

私はラビットさんのこの言葉に戸惑った。きっとラビットさん自身もしかしたらこの時の言葉は冗談半分みたいだったのかも知れない。

でもこの時の私はこの言葉を本気で受け止めた。

理由なんて、そんなの言わずもがなだろう。

だって、またラビットさんとお話がしたかったから……。


『私は言っちゃてるよ。秘密だけどね』


それは悪魔のような囁きだった。

もう1人入っていたメイドさんで、まだ入って日が浅い胡桃さん(仮称)はふわふわした印象そのままに、ふわふわした笑顔を向けて笑ってそう言った。

すると常連さんで塗り固められたお客様ということもあったのだろうか、他のお客様も『僕も知りたいな』なんて口にし始めた。


ここに、もししっかり者の白さんが居たのなら私の運命は大きく変わっていたのかも知れない。

でもこの時は明らかにお店の雰囲気が出勤を伝えるような流れに変わっていた。


『うーん、本当はダメなんですよ』

『そこを何とか!絶対に言わないからさ』


お願い!なんて手を合わせられたら、『絶対に秘密ですからね!』なんて口にしながら、私は自分の出勤日をラビットさんに伝えていた。

勿論ラビットさんだけではなく、そこにいたお客様全員を巻き込む形で話していたものの、私の本心はラビットさんに来てほしいという気持ちと常連さんが来てくれたら仕事が楽になるななんていう邪な気持ち。


誰にだってある感情かも知れない。

仕事が楽になるなら、このくらいなら、バレなければ……


この時の私はそんな感情で、お店のルールを初めて破ってしまったんだ。

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24歳、未婚のシングルマザーになりました @a3shiro

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