第15話 三輪山の巫女 3
夜が明けて東の空が茜色に染まるころ。
まだほの昏い祭壇の間で巫女がすくりと立ち上がった。
頭上から糸で吊り下げられたような立ち上がり方は巫女が神懸った証にみえた。
そのまま、後ろで見守る
「三輪の神のご神託が降りたぞ。謹んで申し受けよ」
童女とは思えない威厳に、ははっと思わず
「天の災い、流行り病は宮中に霊力の強すぎる神の宝があるからだ。
それを外に出してしかるべき場所に移すのだ。そうすれば、災いはやがて治まることだろう」
宮全体が震えるほどの声が放たれ、そのあと恐ろしいほどの静寂が訪れた。
「か、神の宝の霊力、、、そのようなことが、、、」聞いたこともない。神の宝は我らを護ってくれるものではなかったのか?
「神の宝は誰しもに福をもたらすような人に都合のよいものではない!力のない者には災いともなる。神を畏れよ!」巫女は
能面のような巫女の顔、だが目だけが異様に光っている。
も、物の怪、、いや、神だ!三輪山の神が降りているに違いない!
お、恐ろしいことだ!
「宰相、
「三輪山の神の使いと言う者が、わたしの夢に現れました。そしてお告げになられました」
宰相はいささか、驚いてすぐにこの息子を伴い、宮廷に向かった。
そして、巫女の前で震えている
宰相が駆け付けたとき、巫女はすでに神憑りから離れ、平時の娘に戻っていた。みれば、あどけない童女である。
昨夜の様子とは大違いだ、が。
「
「な、なに、そなたの息子までもが三輪山のお告げと?も、申してみよ!」
「はい、
「天の災い、流行り病は宮中に霊力の強すぎる神の宝があるからだ。それを外に出し、相応しき場所に移せ」と。
父に伝えたことと一句違えず繰り返した。
「なんと、、、そちの今申したこと、先ほど三輪山の巫女が告げたことと寸分違わぬ。まことにそちにも三輪山の神が告げたのだな。巫女と宰相の息子が同時に同じ言葉を告げるとは、これは余程のことにちがいない。そう思わぬか、宰相」
「さようでございますな、、、。わが息子が神のお告げを聞くとは驚きを隠せませんが、、、確かにこの
宰相は巫女の言葉と息子の夢の不思議な偶然を訝しんだ。
三輪山の巫女のご神託は、
いったいどういうことなのだ。
「そうか、そのような息子なら確かにあり得る。宰相、急ぎ神のお告げのようにせよ。これ以上災いがあってはならぬ」
「はい。では、、、宮中にお祀りした
「それは巫女が知っておろう。あの者の言う通りにすればよい。それに移すのは
「は、あの、天照大神様の神器までも、でございますか?」
「無論じゃ。思えば
「畏まりました。では、三輪山の巫女に問うて取り計らいましょう」
どうやら、薬が効きすぎたとはこのこと。
宰相は顔には出さず、ほくそ笑んだ。
その父の後ろで、
童女はにっこり笑って
あれは、昨夜の三輪山の巫女だ。
ずいぶん様子が違うが、この胸に沸き起こる懐かしさに間違いはない。
本当に三輪山の巫女だったのだな。
「宰相殿、わたしの言うようにすれば、神の怒りは治まります。すべて指図いたしますゆえ、いきましょう、さ、こちらへ」
双竜伝説 秋喬水登 @minato_aki
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