第14話 三輪山の巫女 2
薄暗い寝屋のなかで、佇む巫女の輪郭だけがぼんやりとした光を放っている。
人には見えぬ光であったが、それを息を殺して見ている者がいた。
巫女は三枚の薄絹を、優雅な舞でも踊るようにひらひらと動かした。
薄絹は巫女の手からふわりと離れた。
と、薄絹は生きているかのようにひらひらと飛びながら
それはまるで、いつも蝶たちがおしゃべりをするような仕草だったので、おもわず微笑んで手を差し出した。
「なにか、話があるのかい?」と。
「ティグル、いや、いまは
巫女が実体でないことは、その佇まいから知れる。しかし、物の怪か死霊か?
そのような類のものにまとわりつく魂の垢のようなもの、穢れたものが巫女からは感じない。それどころか、どこか懐かしい。
旧知の友に会ったような。いや、幼いころに抱きしめられた母上のような。
躰の奥底から湧き上がってくる暖かい想いの波に、
「そうか。怪しむことはない。わたしたちは古い友なのだよ」
わかる。いや、知っている。と
しかし、どこで出逢ってどのような友だったのか。どうしても思い出すことが出来ない。
この声を聞いたのはどこだったか?いつだったか?記憶の霧はあまりにも深く濃かった。
「わたしの魂がみえるなら、助けてほしいことがある」と巫女は言った。
「助ける、、、?わたしに?なにを?」
「朝になったら、おまえの父に夢でお告げを受けたと言うのだ」
巫女は、ずい、と
巫女の黒く大きい瞳がまたたいた。
「天の災い、流行り病は宮中に霊力の強すぎる神の宝があるからだ。
それを外に出してしかるべき場所に移すのだと。そうすれば、災いはやがて治まることだろう」
「そ、それは誰のお告げなのです」
父に伝える、ということはつぎには王様に奏上するということだ。
嘘偽りを言う事は出来ない。
「わたしは三輪山の神の使い。三輪山の神のお告げぞ」巫女はさらに近づいて念を押した。「よいか、必ず頼むぞ」
巫女がかき消えたあとはふたたび薄暗い寝屋に、
三輪山の使い、三輪山の神のお告げ。
巫女の言葉は強い暗示となってつきささった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます