第13話 三輪山の巫女 1
三輪山の神降ろしは夜深くから始められた。
巫女がいうには三輪山の神は夜にひとの形になるのだと。
では昼間はと問うと、それを訊くと命が取られます。と。
気味の悪いことを言う。
掃き清められた板の間に縄が張られ四方に紙垂が垂らされた。
結界の内には巫女がひとり。
しろい小さな顔、童女のように
薄い唇には血の気がなく、頬の色とさほど変わらない。
瞳は黒目勝ちで大きく、ほかの色彩の無さがさらにそれを際立たせていた。
美しい童女だが、どこか恐ろしい。
この世の者ではないような。
三輪山の巫女というのもうなづける。
祭壇は一本のろうそくだけが唯一の光、それが巫女の小さな影を床に刻んでいる。
ただ、いまは外の世界で待つのみ。
巫女は動かない。息をしていないかのようだ。
巫女は目を閉じてすぐ跳んでいた。
実の躰は宮廷のなか、祭壇の前に座っている。跳んでいるのは実体のない魂だ。
巫女はまず大きく息を吸った。
ずいぶん上に跳んだ。高い。
さぁ、今宵は忙しい。まずは
巫女は上空で身をひるがえした。
巫女の手には大きな太刀が握られている。こちらも実体ではないのだろう。
小柄な童女の手には余る大きさだが、軽々と振る。
神宝『
「
いまは宰相の息子とはいえ
兵舎の片隅で他の兵士たちとともに眠っている。
巫女は兵舎の窓にふわりと降り、手に持っている剣で
剣はふるると震え、切っ先から光とも煙ともいえぬ何かが立ち上った。
光は眠る
そのまま
しかし、光は瞬いたのち、すぐに兵士たちの寝息のなかに散った。
いま起こったことに誰も気がつかず、昼間の訓練の疲れからか、深い眠りに沈んでいる。
「ユフラ、
「おまえは憶えておらぬだろうな、古き帝国で鉄を生み出す大河であったことなど」
三輪山の巫女は遥か時と距離を超えて転生した竜を追いかけて来た、滅んだ帝国の巫女であった。
かつて親友でもあり、分身でもあった竜を遠い時空のなかに探し当て、自らを最もちかい聖域に降ろした。
竜をまたその腕に抱くために、巫女はヤマト政権を自在に動かすところにいかなければならぬと思った。そして今まさにその時がやってきた。
今宵、巫女は踊る心を抑えきれてはいなかった。
巫女の魂は
「
「今宵は忙しい。さぁ、青眼の竜の寝屋に急ごう」
巫女は今度は宰相の邸の上に跳んだ。寝屋の壁を通り抜け、眠り入る少年の枕元に立つ。
「
巫女は三枚の薄絹の
一枚を指にかけ、ひらりと。
「
一枚をまた指にかけひらりと。
「
また一枚、これは静かに両手に掲げる。
「
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