第41話 ~四人組の救出隊~ 愁一郎の語り

 気絶しっぱなしのハンターさんを食堂の床に頃がした僕は、呆気にとられている仲間達を前に、名取がハンターに掴まった事を話した。それから、斎藤さんと木村先輩が基地局に向かっている事も。


「なんで止めなかったんだアホ! 余計ややこしくなるだろうが!」


 予想通り、浅葱が開口一番に文句を言う。自分だって止められなかったクセに。


「道路はハンターが張ってるかもしれんから、山中を行くか」


「ハンターは部長を含めて、最低あと三人だよ」


 浅葱は絶対に来るだろうから、父さんと僕と、三対三。あっちは武器を持ってるだろうし、人質(名取)もいる。ちょっと厳しいかなと考えていると、達樹さんが挙手をした。


「俺も行きますわ」


「達樹はここにいろ。もし外科的処置が必要な怪我人が出たらお前の手が必要だ」


 父さんに待機命令を出され、達樹さんは「ええ~?」と不満げに顔をしかめる。


「うちが行く」


 真利亜さんが前に出た。けれど、誠人さんに肩を掴んで止められる。


「結が不安がる。俺が行くから」


「ほなお前が傍におらんかい! オヤジやろうが!」


 真利亜さんが物凄い剣幕で怒鳴った。いつもの愛嬌たっぷりの関西弁が、極道並みに迫力がある威喝いかつに変わる。何人かの同胞がビビってすくみあがるほどに、真利亜さんの怒声は凄かった。

 僕はまあ、真利亜さんの鬼教官ぶりを体験していたお陰で、多少は免疫が作用して飛び上がるまではいかなかったけど。


「うわおうっ。ブチ切れ真利亜ちゃん久しぶりやぁん」


 幼馴染だけに一番免疫があるはずの達樹さんが、何故か一等身を縮めて震えている。トラウマでもあるのかな。


「分った。お前も来い」


 誠人さんの味方をするだろうと思っていた父さんも、あっさり真利亜さんの参戦を許可した。やっぱり昔、なんかあったんだ。怖いから追求する気にはならないけど。


 真利亜さんは父さんに頷くと、誠人さんの横に立っている結を抱きしめた。


「大丈夫や、結。ママちゃんと戻ってくるからな。パパの事頼んだで」


「わかった。あんじょうがんばりや」


 結が小さな手で真利亜さんの肩をぽんぽんと叩く。さすが真利亜さんの娘。普段は甘えん坊だけど、いざという時は気丈だ。

 結の頭をひと撫でした真利亜さんは、ストレートヘアを後ろで一つに束ねながら、僕の隣に移動する。


「愁、うちの横離れたらあかんで。きっちり守ったるさかい」


「え? ああ、はい?」


 真利亜さん、めちゃくちゃ男前だけど。守られるのって、僕の方? 一度は納得しようとしたけどやっぱり無理で、二度も疑問符を付けてしまった。


 とにかく、これで救出隊のメンバーが決まった。父さん、浅葱、撲、真利亜さん。猟師の誰かが一人くらい加わってくれたら更に心強いんだけど、彼らは猟犬を連れて村の周辺の警備にあたっているそうだ。あんまり大人数で動くと目立つし、これくらいが丁度いいのかもしれない。


 僕は、先に玄関で待っていてくれとメンバーに伝えると、調薬室へ向かった。壁一面を埋める薬棚の、ずらりと並んだ引き出し。一番右端の列、上から二番目。それを引き抜いて、中から丸薬を三粒、拾い上げる。先輩の分。斎藤さんの分。名取の分。


「忘れ薬か」


 いつの間にか、出入口に父さんが立っていた。


「飲ませろって、族長が」

 

 短期記憶に作用する忘れ薬。一粒で一日分を消す。

 山を下りる前に、族長に言われていたんだ。知り過ぎている場合は忘れさせろ、って。


「あの妖怪ババア」


 父さんが忌々しげに吐き捨てた。

 二人の間に何があったのかは知らないけれど、父さんと族長は、とことん仲が悪い。大体、大屋敷にいる時はお互い無視し合って生活するか、そうでなければ罵り合ってるかのどちらかだ。


「愁一郎。薬の正体は偽るな。ちゃんと説明して、飲むか飲まないかは自分で決めさせろ」


「分った」


 僕は小さく頷くと、丸薬を紙に包んでジーンズのポケットに入れた。


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