第7話 ~よろしくされたくない~ 愁一郎の語り

「よろしくされたくないよなぁ」


「え、なんだって?」


「なんで僕と弁当食べてるの。名取さん」


 当然のように僕の前に弁当箱を持って現れて食べだしたものだから、何となく放っておいてしまったんだけど、一緒に食べようなんて約束、僕は断じてしていない。

 しかも女子みたく一つの机で向かい合わせにして。絶対もの凄く変な絵面になってるよ、これ。


「あらー、谷原クンのイチゴ、チューリップになってる。可愛い~」


 あーそうですか。質問への答え以外は僕のコメントは無視なんですか。


 ため息をついたら幸せが逃げていくっていうけれど、心底困ったこんな時は、逆に思い切りため息をついたほうが精神衛生上いいんだ。


「どうしたの顔くらいよー? 嫌なことがあったときは、笑うのが一番!」


 そう言って、あははははは、あはははは、と名取さんが手本を見せてくれた。残念なことに、彼女の道化にたまりかねず吹き出したのは僕ではなく、ずっと聞き耳を立てていたクラスメイト数名だ。

 僕はといえば、更にしかめっ面になってチューリップイチゴを咀嚼した。


 勘弁してよ。自覚してよ。誰のせいで暗いと思ってるんだよ。


 体育祭の時に先輩の捻挫を治したのが良くなかったのかな。

 だって先輩、痛そうだったし。捻挫くらいなら静脈流して関節を絞めてやれば簡単だったから、つい手を出しちゃったんだよ。


 ああでも、もし捻挫治療のエピソードなんかを文章に入れられて、それをハンターに見られたら、それだけでヤバイかも。


 早いとこ、効果的な撃退法を何か考えないといけない。


 父さんに相談できたら一番いいんだけど、今はお弟子さんと不老長寿薬を飲んじゃった人の断薬治療で北海道だし、断薬は施術側の神経と体力までべらぼうにすり減らすから、なるべく邪魔はしたくないんだよ。


 かといって族長に相談しようものなら実現不可能な怖い回答が返ってきそうだし、門番役の田沼さんとかだと、余計な心配をかけてしまいそうだし。


 となると……今のところ、あいつしかいないかな。


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